「Dance Lab」は、愛知県芸術劇場シニアプロデューサーの唐津絵理氏などが関わって、半年に1度、横浜で開催されているトークなどのイベント。ダンサー、振付家、プロデューサー、評論家、研究者、観客など、ダンスに携わったり関心があったりする人たちが集まり、日本のコンテンポラリーダンス界の問題点や課題を共有し、今後の発展のために何ができるかを話し合う。
▼「Dance Lab #1」について↓
▼「Dance Lab #2」について↓
第3回では、「Dance Lab」を企画制作する一般財団法人セガサミー文化芸術財団が2020年春に横浜・馬車道に新しいダンスの拠点をオープンするのを前に、ダンスの拠点としての場づくりを、海外や日本の事例や試みから考えた。
▼「Dance Lab #3」の公式ウェブサイト↓
▼「Dance Lab #3」に関する象の鼻テラスのウェブサイト↓
一般財団法人セガサミー文化芸術財団は、唐津絵理氏を理事に迎えて、セガサミーホールディングス株式会社が2019年3月1日に設立。ダンスカンパニー「Opto」の支援、NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)横浜公演の主催、ダンスと映像の国際プロジェクト「On View」の支援などを行う。
▼ダンスカンパニー「Opto」の公演について↓
▼NDT横浜公演について↓
▼国際プロジェクト「On View」について↓
▼唐津絵理氏のTwitter↓
ダンサーや振付家などが思う存分クリエーションに集中できて、それを支えるプロデューサーやスタッフが安定した雇用形態で働き、健康的で人間的な生活を送ることができて、若手ダンサーや振付家を志す人が自由に練習や発表ができて、観客が定期的に気軽に新しいダンスや好きなダンスを見られて、一般市民など誰もが日常的に踊ったりするなどダンスに触れられる場が創出され、継続していくことができたら、素晴らしい。
しかし、それには資金が必要で、芸術自体は芸術だけで採算を取って儲けるのは難しい。民間組織にしても公的機関にしても、別のところでお金を生み出していく、経済を回していくのは必要なのだろう。一方で、税金の使い道については、芸術、福祉、教育にもっと回せるところがあるだろうと思う。また、国がこれから貧しくなっていっても、芸術は絶対に必要だ。衣食住は必要不可欠だが、それだけでいいわけではない。少しでも芸術などに触れられれば、幸福度が確実に上がるし、健康に生きるために芸術(小説を読むなども含んだ、広い意味での)は必要不可欠であるとさえ思っている。
でも、ダンス、しかもコンテンポラリーダンスである必要があるの?という声に対しては、コンテンポラリーダンスが好きで必要と思う人たちみんなが、どう答えられるのかを考えていかなくてはならないだろう。自分なりの答えを持ってはいても、それを隣にいる知人や友人に伝えて、ダンスを見に行こう、踊ってみよう、という気になってもらうのは、全く簡単ではない。伝える相手の興味関心とダンスとを何かしらリンクさせるポイントを察知するアンテナや、伝えるための言葉などを磨く必要があるだろう。
批評家、評論家、研究者の存在も重要で、例えば、西洋美術(史)の分野では、一般の人に分かりやすい言葉で語り書くことができる高階秀爾氏の功績は大きい。ダンスでも、三浦 雅士氏が特にバレエを、今回のイベントに登壇した乗越たかお氏がコンテンポラリーダンスを、広く紹介している。若手のダンス研究者もそれなりの人数がいると思うが、スターっぽい批評家などがもっと出てくるといいのかもしれない。
以下、イベントで話された主な内容を記す。
<第1部:キーノートスピーチ>
■乗越たかお氏(作家・舞踊評論家)
「新しいパフォーミングアーツの拠点 世界のダンススペースから」
フランスの国際振付センター
ヨーロッパ・ダンスハウス・ネットワーク
HanPAC(Hanguk Performing Arts Center)
上海国際舞踊中心
香港CCDC(City Contemporary Dance Company) Dance Center
ロンドン サドラーズ・ウェルズ劇場
・プロデュース・ハウス
・創るための劇場
・年間50万人以上の来場観客数
・収入の70パーセントがチケット売上
・現在17組のアソシエイト・アーティスト
・かつて英国ロイヤル・バレエの拠点
・National Lotteryの助成
・レジデンス・カンパニーには、ニューアドベンチャー、ウェイン・マクレガーなど
・ニューウェーブアソシエーツ、ヤングアソシエーツ
・ユースカンパニー、夏期大学、ブレイキン・コンベンションなど
テルアビブ スザンヌ・デラル・センター
・上演と海外への売り込み
・今はダンスのみ
・バットシェバ舞踊団など
・ヤイル・ヴァルディが運営に携わった
・インターナショナル・エクスポージャー
モンペリエ 国際振付センター(ICI)
・芸術監督は現役アーティスト
・ダンス関連の美術展示(上海のMcaM明当代美術館は、パフォーミングアーツの展示)
ソウル・ダンス・センター
・スタジオとレジデンス(クリエーション)
・スタジオは人気で、すぐ埋まる
・ソウル芸術文化財団が運営
・スタジオ入り口にはバナナが置いてある(栄養補給)
・レジデンスは、京都芸術センターと連携し、交換プログラムあり
シンガポール ダンス・ニュークリアス Dance Nucleus
・スタジオが1時間500円くらいで借りられる
・1日いれば、いろんなアーティストに出会える
上海国際舞踊中心
・Vanguard Body:Sanghai International Dane Center Development Foundationがサポート
若いダンサーが、メンターを選んでクリエーションし、発表
▼乗越たかお氏のTwitter↓
■浅井信好氏(振付家・舞踏家・ダンスハウス黄金4422主宰)
・フランスなどでの活動の経験から、日本でダンスができるスペースを作りたかった
・名古屋のコンテンポラリーダンス専用のプラットフォーム
・小劇場、事務局オフィス、レジデンスの宿泊スペース、アートスタジオ、ギャラリー
・縫製工場だった建物を自分たちでリノベ
・自身のダンサーとしてのネットワークを活用
・ダンサーはもちろん、そうではない人にも来てもらって、ダンスをしてもらう
・韓国やマカオのダンスの拠点などとも連携
・アーティスト・イン・レジデンスを重視(海外から帰国したダンサーへの場の提供も)
・コンテンポラリーダンス関連の展示
・地域連携のプログラム。餅つき大会、マルシェ、ピザパーティー
・アジアのコンテンポラリーダンスのハブとして機能することを目指す
▼ダンスハウス黄金4422のTwitter↓
■西田司氏(建築家・オンデザイン代表)
・創造都市、横浜のプロジェクトに携わる
・オンデザインの事務所が拠点にしてきた場所を紹介
・去年まであった、横浜の「開設助成」は、東京から横浜へ移ってきた事業所などに資金を提供していた
・北仲BRICK & 北仲WHITE
・本町ビル「シゴカイ(45)」
・宇徳ビル「ヨンカイ」
・泰生ビル
・アーティストなどが、自分たちでリノベして、入る
・住人会議:街の清掃、活動を街へ発信
・北仲OPEN!というイベントが、関内外OPEN!となり、続く。スタジオを見せる
・関内外OPEN!の関連として、道路のパークフェスというイベント
・イベントなどから、アーティスト同士のコラボレーション
・八〇〇中心
・泰生ポーチ:障がいのある人が行うカフェ、子どもたちのアフタースクール、夜はトークイベント会場、など
・建物や場ができると、口コミでアーティストが入居
・企業との連携:The Baysは横浜DeNAベイスターズと運営している建物
・歴史的建造物を、外から見るだけでなく、内部を使えるようにして、実際に使って、歴史を感じる
・街の雑草のマッピング
・北仲COOP:クリエイターマルシェなど、アーティストが自分の作品を売ることができる場
・Pecha Kucha Night Yokohamaというイベントとの連携。学生や若者もプレゼン。応援したくなる
・横浜のDance Dance DanceやTPAMなど、ダンス文化との連携もしていきたい
・セガサミー文化芸術財団のDance Base Yokohama(仮称)をこれから作る予定
▼オンデザインの公式ウェブサイト↓
<第2部:パネルディスカッション>
唐津絵理氏(愛知県芸術劇場シニアプロデューサー):1992年オープンの愛知県芸術劇場では、日本では珍しくダンスの自主事業を行う。セガサミー文化芸術財団の理事を引き受ける。企業のアクセサリーとしての財団の活動ではなく、日本のダンスの現状に対応して継続した活動をしていく。拠点もつくる。
勝見博光氏(セガサミー文化芸術財団クリエイティブディレクター):親会社のセガサミーホールディングスは、幅広い事業を手掛ける。そういう事業は、芸術活動があってこそ。特にパフォーミングアーツは財政不足なので、財団を設立して芸術活動を支援したいと考えた。アクションを起こすのと、地域との関わりを重視。
唐津氏:磁力のある「場」が、財団の活動拠点として必要。バレエ・リュスのような、磁場。バウハウスのような。ダンスハウス、センターであっても、ダンスだけに閉じこもるのではなく、さまざまなアーティストが出会い、交わる場所。クリエーションができる場。ダンサーの居場所。日本のダンス情報が集まっている、情報が得られる場所。横浜市民とつながれる場所。ダンスのプロデューサー、制作などの仕事を、職業として食べていけるようにすることができる場にしたい。
乗越氏:この財団の活動に期待したい。プロフェッショナルなダンサーの教育とクリエーションの場。そして、プロではない人たちが踊る場。オーディエンス・エンゲージメントが、海外のダンス関係者の間では言われている。少子化の中で、キッズ・プログラムや、アーティストと関わって体験するプログラムで、人々がダンスを生活に欠かせないものとして捉えるようにしていく。その人たちが観客になり、ダンス活動に参加する。
浅井氏:2005年にフランスから帰国。民間企業による財団設立の話があったが、実現しなかった。リスクも自分で背負って、自分でダンスセンターをやろうと思った。最初は、プロ向けの高度なプログラムばかり組んでいたら、人が集まらなかった。地元のダンスのニーズも探りながら、プロとそうでない人のダンスをどう混ぜていくか、を考えていった。
西田氏:浅井氏がスピーチのときに流した、ダンスハウス黄金4422を紹介する映像で、ダンサーの島地保武氏が「同じ目的意識を持つ人たちが集まっている」と言っていた。世界観、危機感、目的意識などは、プロも、プロではないがダンスに関心がある人も、意外と共有できるのではないか。
浅井氏:フランスでは助成や発表する場を得られた。最初は、ダンスハウス黄金4422は、日本での自分の創作の拠点という側面もあった。しかし、それだけでは場を十分に活用できないので、自分の場ではなくパブリックの場、みんなの場という意識へ。ピザ窯を手作りして、ピザを振る舞って、みんなと話し合ったり。
乗越氏:日本では文化芸術に税金を使う率が低い。一般の人がアートは自分たちに必要だと認識しておらず、だから政治家も注力しない。ヨーロッパなどでも、アーティスト支援などへの批判はあるが、存続している。オペラ座という拠点があり、誇りを持っているからではないか。日本ではそういう場がない。オーディエンス・エンゲージメントを醸成できる場が必要。
浅井氏:ダンスハウス黄金4422は、建物が古く、個人の財源で運営しているので、長くは続けられない。地元のダンサーたちを引っかき回して、刺激して、その人たちが危機感を持って自ら動いていくことを狙っている。
浅井氏:以前はヨーロッパしか知らなかったが、日本に帰ってきて、ダンスハウスを運営して、アジアのダンサーたちと交流するようになった。同年代の30代の人たちとか。ダンス作品は15回以上、上演して初めて、質が高まる。日本の作品をアジアで上演する機会も探りたい。
唐津氏:浅井氏のように、身銭を切って体を酷使してやるのは危険で、本当は、企業もだが、国に支援してほしい。
勝見氏:財団としてNDT招聘を最初に行ったのは、多くの人にダンスの価値を知ってもらうため。神奈川芸術劇場で公演。横浜市教育委員会に掛け合って、市の公立中学校の全生徒2万7000人くらいに公演のチラシを配布し、無料招待したら、500人くらいが見に来た。その半分くらいに、チケットを買って親が一緒に来てくれた。無料招待したのは、ダンスを見る観客の幅や層を広げたいから。こうしたことを、唐津氏からの提案で実施した。
浅井氏:海外から帰国したダンサーの居場所がない、というのは、クリエーションをするための助成を得られない、という意味もある。また、日本では、アーティストが自分で制作やプロデュースもしなければならない現状がある。海外では、サポートしてくれるスタッフがいることが多いが。
乗越氏:バブルの時代以降は、小さいインディペンデントのカンパニーが多い。スタッフとして支援する人たちも、細々と何とかやっている状態。このままでは先細り。
唐津氏:育成は、アーティストだけでなく、アーティストを支える人たち、制作スタッフについても行いたいと考えていて、スタッフたちもその仕事で食べていけるようにしたい。疲弊して、心を病んで、やめていく人たちをたくさん見てきたので。アーティスト、制作スタッフ、批評家やライターに、同じくらいの給料を払えるようにしたい。
西田氏:アンディ・ウォーホルのラボのような場を作りたい。全てがアートに関わるものではなくても、異分野の人からダンスに変化が訪れる可能性も見たい。
西田氏:NDTのスタッフには、ダンスでどう街を観光化できるかという産業の分野を扱う人たちもいる。
乗越氏:脇道。病院などの前に広場を作ったりすると、通行する人が必ず、建築家の予測できない脇道を作ってしまう(通れる場所を見つけて歩く)。だから、そのあとに道を舗装する。一方で、放っておくと、何もアクションを起こせない人もいる。
唐津氏:やりたい人は誰に何と言われようとやる。そこまでではない人に対して、どこまでお膳立てする必要があるのか?今回の財団では、アーティストの育成というよりはスタッフの育成をしっかりやりたい。
乗越氏:何かに触れて衝撃を受けて、たがが外れると、大きく成長し得るアーティストはいると思う。
唐津氏:学校とかで居場所を作りづらいアーティスト気質の人たちなどに、逃げ場、居場所としての場を、劇場などで作りたい。正解がなくてよい場。
浅井氏:大学の修士課程の学生にダンスハウスの建築を設計してもらった。クリエーションする上での、空間をこうしたいということを伝えて。
西田氏:街や空間や場には、記憶が大切。記憶を継承していく場。
浅井氏:瞬間芸術であるダンスには、人に何かを刻む、何かを残す力がある。そういう場が増えることに期待したい。
乗越氏:評論家も重要。インターネットでは気軽に書けるが、プロの評論家、批評家として、アーティストと観客をブリッジ(橋渡し)する人たちが必要。
唐津氏:ダンスのことを何かしたいという人は、ぜひ私に声を掛けてください。
勝見氏:乗越氏がスピーチで発表した海外のダンスの拠点の視察は、セガサミーの依頼で行ってもらい、今後、報告書をまとめる予定。
財団の最初のクリエーション活動として、横浜や神奈川に縁がある、安藤洋子氏、酒井はな氏、中村恩恵氏によるクリエーションが、これから行われる予定。
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開催日時:2019年9月2日(月) 18:00 - 20:30
※終了後、懇親会
会場:象の鼻テラス
参加費:無料
主催・企画・制作:一般財団法人セガサミー文化芸術財団
共催:象の鼻テラス、赤レンガ倉庫1号館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
登壇者:
乗越たかお(作家・舞踊評論家)
西田司(建築家・オンデザイン代表)
浅井信好(振付家・舞踏家・ダンスハウス黄金4422主宰)
唐津絵理(愛知県芸術劇場シニアプロデューサー)
ファシリテーター:勝見博光(セガサミー文化芸術財団クリエイティブディレクター)
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