振付家のアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルが1983年にベルギー・ブリュッセルを拠点に結成し、現在も活動を続けるローザス(Rosas)。今回の来日公演では、その最近の2つの作品、「A Love Supreme~至上の愛」と「我ら人生のただ中にあって/バッハ無伴奏チェロ組曲」が、別々に上演された。
最初に見たモダン・ジャズの音楽による4人の男性ダンサーの「A Love Supreme~至上の愛」は良さがよく分からなかったのだが、1週間後に見たチェロ生演奏のバッハの曲による「我ら人生のただ中にあって/バッハ無伴奏チェロ組曲」にはなぜか素直に感動した。最初の作品を見たときは、作品を鑑賞する気持ちが整っていなかったのかもしれない。
■「A Love Supreme~至上の愛」
新作のはずだが、どこか古い感じがしてしまった。
4人の男性ダンサーが最初は音楽なしで踊り、眠くなりかけたころに大音量で録音の音楽が入る。音楽なしのときのダンスと同じような動きを、音楽が入った後にも行っていたようだ。そうすると、冒頭の無音のダンスが今度は音楽とともに脳裏に浮かんでくるという不思議な現象が起こる。これは面白い。
私はジャズにも音楽にも素養がなく、音感やリズム感も乏しいのが災いしたのか(この要因が大きいと思われる)、あまり大きな感銘を受けなかった。黒人のダンサーが1人で踊るところなど、目を引かれるところもあったし、ダンサーたちの動きと音楽とがピタッとはまっているところも少しあり、そこは気持ち良かったが、全体的に動きはやや緩慢にも見えたのは、そういう振付なのだろうか?
数十年前の振付のように見えてしまった。
しかし、観客は拍手喝さいしていたし、終演後に立ち話をしていた人たちからも、褒めている声が聞こえていた。残念ながら今の私には素晴らしさが分からなかったようだ。
■「我ら人生のただ中にあって/バッハ無伴奏チェロ組曲」
「A Love Supreme~至上の愛」はほとんど凡庸とまで思えたのに、この「我ら人生のただ中にあって/バッハ無伴奏チェロ組曲」には素直に感動してしまった。
チェロの生演奏によるバッハの曲は、音楽に疎い私でも聞き覚えがあるので、有名なのだろう。クラシック音楽を生で聞く機会はめったにないが、美しい音色に酔った。
5人のダンサーが登場し、音楽の節目ごとに、1人ずつ踊るが、1人のダンサー(ケースマイケルさん)は全てのシーンに登場し、ところどころ一緒に踊る。
各シーンの間では、ダンサーたちが床にテープを貼る。床にはもともと幾つもの円が部分的に重なりながら描いてあり、テープはその円を利用して、星などの形になるように貼られていった。正面の壁に4桁の数字が映写されたり消えたりまた別の4桁の数字が映写されたりしていた。この数字は、曲か、床に描かれた図形と関係するのだろうか?
各シーンが始まる前には、ケースマイケルさんが舞台の手前に立ち、観客席に向かって、指を何本か立てたり、手で顔を覆ったりする。そして、チェロ奏者の方を向き、演奏が始まることが多かった。指揮者のようだ。このジェスチャーのような動きも、壁の数字と関係があるのかないのか?
洗練されていてテクニックの難度が高いダンスというわけではないように思える。むしろ一生懸命ドタバタと動き回っているように見える。わざとそのような動きにしているのだろうか。いわゆる美しい踊りとは思えないのに、なぜか感動する。ただ走るのもダンスである、というような。同じ動きが何度か繰り返されるのは、音楽の旋律が繰り返されているかのようだった。
チェロ奏者は椅子に座って演奏するが、椅子の位置や体の向きをシーンごとに変える。時折、チェロ奏者とダンサーが目を合わせたり、ダンサーがチェロ奏者に近づくなどしていた。程よい距離を保ちながらたまに優しく愛撫するかのような「交流」も、作品のアクセントになっていた。
チェロの古典的な音楽がまるで現代のものであるかのように、バッハの曲に同時代的に反応して踊っているのが素晴らしい。音をダンスにするのってそういうふうにするのか!という発見の連続。
ダンサーたちは音楽の波に乗り、ぎこちなかったり疲れたりしながら動いているように見えたりもするのに、気持ちよさそうでもある。
ずっと引き込まれて集中して見入るというよりは、思考がいろんな方向に散りそうになるときもあった。それでも、また音楽と踊りに引き戻されていく。2時間が永遠に続いていたような、不思議な感覚。
最後は全員で踊り、終演。観客の拍手に応じて、何度も登場してお辞儀するダンサーたち。なんで感動するのだろうと少しきょとんとした面持ちで、でも思いっきり拍手をした。
帰宅後、チェロのバッハの音楽が頭の中でリフレインし、ひょろひょろと体を動かしてみた。なんだか気持ちが良い。
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芸劇dance
Rosas
「A Love Supreme~至上の愛」
「我ら人生のただ中にあって/バッハ無伴奏チェロ組曲」
2019年05月09日 (木) ~12日 (日)「A Love Supreme ~至上の愛」
2019年05月18日 (土)・19日 (日)「我ら人生のただ中にあって/バッハ無伴奏チェロ組
東京芸術劇場 プレイハウス
S席 6,000円
A席 5,000円
65歳以上(S席) 5,500円
25歳以下(A席) 3,000円
高校生割引 1,000円
「A Love Supreme ~至上の愛」
振付:サルヴァ・サンチス Salva Sanchis、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル Anne Teresa De Keersmaeker
音楽:ジョン・コルトレーン<至上の愛> John Coltrane<A Love Supreme>
出演:ローザス
José Paulo dos Santos, Bilal El Had, Jason Respilieux, Thomas Vantuycom
上演時間:約50分(途中休憩なし)
「我ら人生のただ中にあって/バッハ無伴奏チェロ組曲」
Mitten wir im Leben sind/Bach6Cellosuiten
振付:アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル Anne Teresa De Keersmaeker
音楽:J.S.バッハ<無伴奏チェロ組曲>
J.S.Bach<6 Cello Suites>BWV 1007 – 1012
チェロ:ジャン=ギアン・ケラス Jean-Guihen Queyras
出演:ローザス
Boštjan Antončič, Anne Teresa De Keersmaeker, Marie Goudot, Julien Monty, Michaël Pomero
上演時間:約2時間(途中休憩なし)
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