東京造形大学 映画・映像専攻+Dance and Media Japan。プロデューサー・セレクター:飯名尚人。2日間開催。ダンス映画・映像の上映とトーク。
<2019年3月2日(土)>
■第1部:国際学生ビデオダンス・クリエイション(10作品)/トーク 安野太郎+飯名尚人
いろいろな試みや実験を志しているのは分かったが、印象に残ったのは、休憩後に上映された3作品。
『水玉好心曲』(玉城里奈)は、画質は荒いし、音響も聞きづらいし、棒読みな感じの演技で始まったのでどうなることかと思ったが、薄ぼんやりした中でイサドラ・ダンカン風の(?!)ダンスシーンが入った辺りから、なんかよく分からないんだけど、何だろうこれは・・・と気になってきた。海に行って、漁師さん(?)に謎の「サンゴ」についての話を聞くところ、看板が映るところ、海がひたすら映るところ、何かがある作品だなと思った。アート作品としてもあり得る映像だと思う。
『Wŭ Fēnzhōng(5分間)』(ICU NY Taiwan Dance Project)は、ダンスや演劇のスタジオ(稽古場)のような場所で、部屋の四方に観客が座っている中、パフォーマンスしているものを、手持ちカメラで撮影した作品。スマホで5分のアラームをセットし、マイクで「5分で何ができる?」という話をしながら、パフォーマーたちが動く。目をつぶりながらすり足で動いていたのかな。横たわった人を担いで運びながら登場するとき、担いでいる人が鳴き声を出す。台湾の葬式の泣き女の風習を表したものだろうか。5分を何度か繰り返すのだが、人生における5分というものを考えさせられた。最後にカメラが床に斜めに転がってしまうのも味がある。
『19』(中山ひかり)は、最も気に入ったかも。2人の女性が浴室に入り顔で触り合ったりする様子がエロティック。特に髪の毛が肩より長い女性は、とても色っぽい。浴室のシーンの後の、同じ2人のうちの一人が街をさまよう映像を部屋の壁に投影し、その壁の手前にもう一人の女性がいて映像と重なって見えるシーンや、その後の、特にセクシーな方の女性が道路で一人ゆらゆら踊るシーンも魅惑的で、うまいなと思った。
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※上映の順番はこの通りではない。
「ゑふ/YOH」つと(岩城かのこ、石原澄礼)、乙坂麻衣
「ソトガワ」「色見えで」山中美於
「take9」 両手に花 with 弟
「Wǔ Fēnzhōng(5分間)」ICU NY Taiwan Dance Project
「おかっぱぶるー」廣瀬瑠衣
「ごちゃるいま」Anna
「水玉好心曲」玉城里奈
「19」中山ひかり
「冥々」桑原咲羽、山崎未樹
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■第2部:特別上映 ダニエル・シュミット+大野一雄(3作品)/トーク 溝端俊夫+飯名尚人
『書かれた顔』(1995年)、『KAZUO OHNO』(1995年)、「ダニエル・シュミット、レナート・ベルタ撮影による未使用フィルム」(1995年)の3本を連続上映。
『書かれた顔』は、坂東玉三郎が主役の1時間29分のドキュメンタリー。女形としてのパフォーマンスや、女形を演じることについてのインタビューなどを収める。女優の杉村春子なども出演。大野一雄が踊る姿が数分間、登場する。そのたった数分に泣けてしまう。
演じること、性・ジェンダー、老いなどがテーマとして見える。坂東さんは男だが女を演じ、杉村さんはいわゆる女優的な美人ではないがその女性像とは違う女を演じる。でも、大野さんは、代表作「ラ・アルヘンチーナ頌」で女性の格好をしているように見えたとしても、もはや男女とか性とかを超えた存在だと思う。
坂東玉三郎さんが、歌舞伎ではない、映画のような作品でたぶん芸者を演じていた、作中劇のようなシーンは何だったのだろうか?実際にある映画かドラマなのか、それとも、この『書かれた顔』のために撮られたものなのか?
『KAZUO OHNO』は、大野一雄さんが、横浜市の劇場(テアトルフォンテ)や自宅、晴海ふ頭(?)で踊っているところを捉えた15分の映像。『書かれた顔』のために撮影された映像のうち、使わなかった部分を活用して、大野さんだけのための作品にしたものらしい。当時88歳の大野さんは、自宅で家事をする妻が見守る中でノーメイクで踊っているときでさえも、あの場にはいないというか、どこかへ飛んでいっているように見える。神がかっている。「ラ・アルヘンチーナ頌」を生で見ることはかなわなかったが、映像で見ても胸を打たれる。ただひたすら美しく、涙が出てくる。性別や容姿や年齢を超えたところに美が存在している。
「ダニエル・シュミット、レナート・ベルタ撮影による未使用フィルム」は、作品として公開されたものではなく、『書かれた顔』と『KAZUO OHNO』のダニエル・シュミット監督から大野一雄さん宛てに私的に送られてきたフィルム映像らしい。『KAZUO OHNO』にも使用しなかった、大野一雄さんの稽古の様子などが映っている貴重な映像。
この3本をまとめて見られるだけでもおそらくラッキーだったのに、うれしい(というよりありがたい)サプライズが最後に待っていた。最前列で映像を鑑賞していらっしゃった、大野一雄さんの息子、大野慶人さんが、「未使用フィルム」の上映直後に立ち上がり、スクリーンの前に進み出た。そして曲がかかり、大野慶人さんが片手にはめた大野一雄さんの人形を動かして、踊って見せてくれたのだ!インターネットの動画で見たことはあったが、まさか生で見られるとは!決して大きくはない動きなのだが、慶人さんと人形の一雄さんが一体となって、厳かで尊い力がにじみ出てくる。「踊りは動き(だけ)ではないのだ」ということを実感させてくれるダンスだった。
<2019年3月3日(日)>
■第3部:国際ダンス映画祭2019 インターナショナル部門 上映/トーク 飯名尚人
応募作品から選出した作品を上映。
「うぬぼれ」監督・振付:Florent Schwartz(フランス・アメリカ):走行する列車の中で、少し昔の服装をした人々がゲームなどに興じている中で、強烈な疎外感や不安に駆られたらしい女性が一人逃げまどい、最後には列車の外に出てしまう。享楽と緊張、人工の光と屋外の闇などの対照が印象深い。
「1958 デリバリー《慢遞1958》」監督・振付:Elysa WENDI(香港):日本の写真家が1958年に香港で撮影した写真に触発されて制作された映像。セピア色の儀式の映像や、青年が葬儀用と思われる大きな花の飾りを持って街じゅうを駆け回る映像が交錯する。懐かしさと異質、昔と今が交差する地点に連れてこられたかのよう。厳かだが少しユーモラスでもある。インスピレーションのきっかけとなった写真家への感謝の気持ちのようなものも感じた。
「オブ・サイレンス」監督:Sam Asaert 振付:Andrew McNicol(イギリス):いわゆる美しいモダンバレエのような映像だが、スローモーションやアップを後悔的に用い、男女の踊りが何らかの関係性をにおわせているようにも見えてくる。
「タイムパルス」監督・振付・撮影・編集: APOTROPIA(イタリア):身体のクローズアップや物や自然などのやや非現実的に見えるカットが組み合わさっている。ビデオアートのような作品。
「ブックアニマ:ダンス」監督・振付・撮影・編集:SHON KIM(韓国・アメリカ):バレエ、韓国の伝統舞踊、モダンダンスの教本を映写。パラパラ漫画のようにしてイラストや写真が動いているように見せていた。独自の着眼点。
「ナルキッソスの死」監督・振付・編集・出演:Peter Sparling(アメリカ):背景の絵と手前の動く男性とを合成した、アニメチックな作品。男性は自分に陶酔しているかのように踊っている?どんどん服を脱いでいくが、特に見たいとは思わない体や動きなのだが、わざと鑑賞者に軽い不快感を抱かせるように作ったのだろうか。
「スリープ ウェル」監督・振付・撮影・編集・出演:SARA SIMEONI(ドイツ):「ぐっすりお眠り、サラ」といった男性の英語のナレーションが流れる中で、女性が腹に手を当てたり、脚の間に手を入れたりする。性や妊娠を暗示しているのか?とも思った。不穏な雰囲気を感じる、心がザワザワしてくる作品。
「風精.刻/ブルー・ヒルの町」監督・振付:JOOWON SONG(韓国):昔の韓国の町を、昔の人たちが亡霊としてさまよっているような、不思議な作品。最後に、すっかり現代的になった同じ場所だろうか、ビルが立ち並ぶ街が映し出される。コンクリートの道路脇やビルの片隅にも、時が止まったままの過去の人たちが潜んでいるかもしれない、と思えてきた。
「カルテ・ブランシュ」監督・振付:Augenblick(イタリア):内容が思い出せない・・・。
「坊ちゃん合宿」監督:Nathan Smith / Max Pollard 振付:Nathan Smith(日本・オーストラリア):オーストラリアの監督が、日本の人と場所を撮った作品。出世をめぐる競争にさらされながら働き過ぎの会社員たちが、夏目漱石の『坊ちゃん』の世界をなぞる「坊ちゃん合宿」なるものに参加する。合宿で指示を出すのは、古いタイプのテレビで再生されるビデオに登場する、これまた数十年前のような風情がある女性だ。全体的に、今より昔の時代設定だったのだろうか。会社でコピーをたくさんしている場面があったが、今も職種によってはコピーをたくさん取るのだろうか?笑えるが、結構シュールで怖い作品。
「トランシルバニア・アクロバランス」監督・撮影:Tanya Plazner(ルーマニア):ドキュメンタリー風の作品。舞踊フェスティバルに参加して、パートナだろうか、一緒に行った人にけがをさせられたと語る。現地の病院に行ったら、医師がハンサムで、手術も成功して、医師と結婚して子供をもうけた、という話。伝統舞踊的なものの映像と、ふざけているともとれるお話。語り手の顔は映らないが、彼女の人生が気になってしまう、視聴した人を引き寄せる力を持った作品。
「バルナム」監督:Sara 振付:Padmini Chettur (インド):インドの踊りの解説のようなものが、単調な声で流れ、その踊りが踊られる。言葉の音の響きと言い方、踊りの動きがが眠気を誘う。眠ってしまいそうになるが、心地いいかも。不眠に効くかもしれない。
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※上映の順番はこの通りではない。
「うぬぼれ」監督・振付:Florent Schwartz(フランス・アメリカ)
「1958 デリバリー《慢遞1958》」監督・振付:Elysa WENDI(香港)
「オブ・サイレンス」監督:Sam Asaert 振付:Andrew McNicol(イギリス)
「タイムパルス」監督・振付・撮影・編集: APOTROPIA(イタリア)
「ブックアニマ:ダンス」監督・振付・撮影・編集:SHON KIM(韓国・アメリカ)
「ナルキッソスの死」監督・振付・編集・出演:Peter Sparling(アメリカ)
「スリープ ウェル」監督・振付・撮影・編集・出演:SARA SIMEONI(ドイツ)
「風精.刻」監督・振付:JOOWON SONG(韓国)
「カルテ・ブランシュ」監督・振付:Augenblick(イタリア)
「坊ちゃん合宿」監督:Nathan Smith / Max Pollard 振付:Nathan Smith(日本・オーストラリア)
「トランシルバニア・アクロバランス」監督・撮影:Tanya Plazner(ルーマニア)
「バルナム」監督:Sara 振付:Padmini Chettur (インド)
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■第4部:招待作品(3作品)
鷹野隆大『RED & GREEN(仮)』(2019年)、ラ・リボット(La Ribot)『マリアッチ17』(2009年)、ルイーズ・ナルボニ(Louise Narboni)+ヨアン・ブルジョワ(Yoann Bourgeois)『グレート・ゴースト』(2017年)を上映。
鷹野隆大『RED & GREEN(仮)』:写真家が、自身の体験型インスタレーション作品「欲望の部屋」(2018年)から作った初の映像作品。「被写体の影が残る」ということをモチーフにしている。この映像を見る限りでは、よく分からなかった。リアルタイムで鑑賞者の姿を取り込むアート作品(インスタレーション)はままあるし、それを録画映像にして、どんな意義があったのだろうか。意義うんぬんは抜きにしても、あまり興味深いとも思えなかった。上映後のトークを聞いていれば、何か示唆を得られたのだろうと思うが、残念ながら聞かなかったので。
ラ・リボット(La Ribot)『マリアッチ17』:ダンスでもありアート(美術)でもある、度肝を抜かれる作品。このあらがいがたい魅力は何だろう?手持ちカメラで室内を疾走し、時折短く止まって物や人の体の一部を映す。映像が呼吸しているような、ずっと浸っていたいような、自分の中の新たな感覚器官を開発されているかのような映像だ。ただ「走る」ことさえ、実は私たちは何も分かっていないのだ、という気にさせられる。身体や運動(動き)や感覚には無限の可能性があると思わせられる。このアーティストの作品をもっと見たい。
ルイーズ・ナルボニ(Louise Narboni)+ヨアン・ブルジョワ(Yoann Bourgeois)『グレート・ゴースト』:パリのパンテオンで開かれた動く展覧会「歴史の力学:宙づりの支点へ至る試み」で行われたダンスパフォーマンスの映画化、らしい。古典的な絵画が展示されている荘厳な建築のパンテオンの内部に、トランポリン、回転台、不安定な天秤、「気まぐれシーソー」の4つの装置が設置され、それぞれの装置でダンサーたちがアクロバティックな動きを行う。文豪や詩人のテキストを朗読したナレーションが、ダンスの合間に建物や街の風景とともに流れる。ダンサーたちがせりふを言うわけではないのだが、装置の微妙なバランスを保ちながらの動きとダンサーたちの動きや視線が相まって、無言劇のようなドラマが生成する。壮大な装置で繰り広げられる危うげなバランスゲームを映し出す美しい映像から目が離せない。緊張感あふれるダンサーを見ながら、見ているこちらも息をひそめてしまい、息が止まりそうだ。最後、4つの装置がある空間を同時に映し出すふかんの映像は圧巻!魅惑的な映像美と身体美を堪能できる。
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2019年3月2日-3日
スパイラルホール(スパイラル3F/東京・青山)
<上映>
国際ダンス映画祭2019 [インターナショナル部門]
国際学生ビデオダンス・クリエイション [学生部門]
<特別上映>
ダニエル・シュミット+大野一雄 3作品(1995年)
「書かれた顔」配給:ユーロスペース
「KAZUO OHNO」
「ダニエル・シュミット、レナート・ベルタ撮影による未使用フィルム」
<招待作品>
鷹野隆大 新作映像作品「RED & GREEN」(2019年)
ラ・リボット「Mariachi 17」(2009年)
ルイーズ・ナルボニ + ヨアン・ブルジョワ「グレート・ゴースト〜偉大なる幽霊たち〜」(2017年)
[主催]東京造形大学 映画・映像専攻領域、Dance and Media Japan
[巡回イベント共催]NPO法人DANCE BOX(神戸)、yummy dance(松山)、R40(岡山)、からだとダンス研究室(仙台)、宮城野区文化センター(仙台)
[協力]大野一雄舞踏研究所、NPO法人ダンスアーカイヴ構想
[提供]ユーロスペース(「書かれた顔」)
[制作]有限会社かんた
[WEB制作]東京造形大学メディアデザイン専攻領域、Dance and Media Japan
[会場協力]株式会社ワコールアートセンター
[Special thanks]Les Films Jack Fébus
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