平原慎太郎、三東瑠璃 etc.「平原慎太郎ベストアルバム―Grease3」座・高円寺2

平原慎太郎さんが率いるダンスカンパニーOrganWorksとダンスクラスを開講しているG-Screw Dance Laboのメンバーたちによる公演(総勢32人)。8作品(+最後のあいさつのダンス)のうち、平原さん自身も3作品(+最後のあいさつのダンス)に出演している。

10分の休憩をはさんで、前半と後半が約1時間ずつあり、計2時間くらいの上演時間。

前半の4作品は、正直、あまりピンとこなかった。オープニングではイントロダクション的な内容をダンサーが話し(後半の冒頭や途中、最後でも声・言葉が使われていた)、最初の作品「Before Beginning After the End」(2013年。「終わりのあと、始まりの前」の意か)は「生と死、その循環」がテーマだと伝えられる。興味のあるテーマなのだが、ダンスにはいまいち入り込めなかった。

ただ、後半では目が覚めた。後半の最初の作品「Pair Dance」(2019年)は男女のペアによる群舞と言えるようなダンスで、他の作品と比べて明るいタッチだと思う。先頭で踊っていたペア、平原さんと高岡沙彩さんという方が、踊りが上手なので、振付家がどんな作品を創りたかったのかが、見えやすかった。高岡さんは基礎がしっかりしていて、小柄な方なのだが目立っていて、平原さんとともにずっと目で追ってしまった。異彩を放っていた。

他の作品は、前半のものも、後半の「毒薬」がテーマの作品(毒薬の話がナレーションで流れる。ダンサーたちが「うぇっ」と吐き気を表す声を発するのもすごい)や、8作品目の「EUTOPIA」(2012年)も含めて、どす黒いものを扱っているように思えた。この印象には選曲も関係しているかもしれない。単に暗い雰囲気というのではなく、少し気分が悪くなったり、われながら「なぜこんな怖いことを今思い付いたのだ?」というような恐ろしい想像が浮かんだりした。人間の闇、暗部をえぐり出すような作品群なのではないかと思った。西洋絵画で言うと、カラヴァッジョの(一部の)絵画や、その画風の流れを汲むアルテミジア・ロミ・ジェンティレスキの絵画のような感じか(フランシスコ・デ・ゴヤの版画や「黒い絵」は少し違う気がする)。

「EUTOPIA」では、平原さんが、『青ひげ』の物語を語る。青ひげ公がこれまで何人もの妻をめとり全て殺していたこと、最後の妻だけ生き残り、青ひげ公は死んだこと。しかし、物語に存在する人物たちは、本が開かれるたびに再生する。死んだ妻たちと青ひげ公はまた生き生きとした姿になる。しかし、最後の妻だけは死んでいないので生き返ることもなく、ただ存在が古びていくと言う。「永遠の生には死が必要」といったことが述べられる。この辺りも、悲観主義というか皮肉主義というか。

「死よりも老いが恐ろしい」ということのようにも思えるが、「EUTOPIA」にだけ出演する三東瑠璃さんが青ひげ公の最後の妻として(と思われる)、ラストに舞台中央で丸い光の中で踊る姿は、舞踏で言うところのまさに「生ける屍」。とても不気味だが美しい。壊れかけの機械仕掛けの人形よりもすさまじく、爬虫類が死ぬ直前に硬直しながらのた打ち回っているとでも言うのだろうか。いや、あれは初めて見る体、動き、存在だった。私は一体何を目撃したのだろう?三東さんが踊るのを初めて見たので、三東さんのあの数分のシーンだけで前売りチケット3,800円の価値があったと思えるほどだ。

本公演に限らないが、男性ダンサーと女性ダンサーとで役割分担をさせていたり、男性が女性をリフトする場面が圧倒的に多かったり、男性から見た(身勝手な)女性像ばかり出てきたりする作品は、その部分で少し冷めてしまう。そういう男女二元論も含めてその作り手の作品なのだからそれはそれで仕方ないのだろうし、そういうのと作品の他の要素はもっと分けて考えるべきなのかとも思いつつ、そういうところで引っ掛かってしまうと、これは私の身勝手だが何だかもったいない気分になる。

「EUTOPIA」で、青ひげ公になっていたと思われる平原さんが、最後の妻として踊っていたと思われる三東さんを虐げる場面は、短かったが、この場面が作品で必要なのは分かるからもちろん構わないのだが、やはりちょっとつらい、と言うよりは、何だろう、虐げている者も含めて悲しさを感じた。そういうシーンだったのだろうか?


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「―平原慎太郎ベストアルバム―Grease3」

2019年

2月27日(wed) 19:00

2月28日(thu) 13:00 & 18:00 (30分前開場)

振付・構成 平原慎太郎

出演

飯森沙百合、池上たっくん、糸﨑真一郎

大西彩瑛、大森弥子、押味真里菜

木原萌花、小松詩乃、小松 睦、佐々木実紀

佐藤琢哉、清水孝夫、白倉絵蓮、高岡沙綾

高杉みどり、高橋真帆、武本協子、谷崎理絵

中西あい、藤本茂寿、堀川千夏、牧野彩季

町田妙子、三東瑠璃、村井玲美、目附朗子

やえおめぐむ、薬師寺綾、善岡宏和、渡辺はるか

平原慎太郎

料金 前売:3,800円、当日:4,200円

(日時指定・自由席)

2公演チケット:5,500円

3公演チケット:7,000円 (各回10席限定)

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※下記画像は下記サイトより。


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