英国ロイヤル・バレエ団のダンサーたちが踊る、シェイクスピアが原作でケネス・マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』を映画にした作品。ハンガリーの撮影スタジオで、16世紀イタリアの街が再現され、自然の風に吹かれて踊り手たちが舞った。
舞台転換がない分、スピーディーに話が進み、大映しになったダンサーたちの表情も多くを語る。プロコフィエフの音楽も鮮明に耳に響く。
最近は、イギリスでの上演を撮影したバレエの舞台を映画館で見られるようになっているが、その映像とは違い、この映画では、音楽がやんだ後に、ダンサーたちの息遣いが聞こえたりする。
ジュリエット役のフランチェスカ・ヘイワードの表情をゆっくりと映し出す場面が二度ほどあり、映画ならではの演出効果を狙ったと思われる。
ヘイワードの眉尻が薄くて、全体的にメイクが薄い、と気付いたが、この点も、上演する舞台を撮影したものとは違う。
ラストシーンで、ロミオの短剣で胸を突いたジュリエットが、墓場の台に横たわり、台の下で息絶えているロミオの方に手を伸ばすも、あとちょっとのところで届かず、死んでしまう。その「ロミオに届かなかった」ジュリエットの手に接近するカメラワークは、悲劇を強調しているようだ。
ところで、子どものときに『ロミオとジュリエット』の話を初めて知ったとき、ロミオは毒薬で死ぬのに、ジュリエットは短剣で刺して死ぬのって、即死できなさそうだし、痛そう・・・と思った。しかし、聖書を題材にした絵画や、クレオパトラが胸を毒蛇にかませて自死する絵画などもあるので、「女性が胸から血を流して死ぬ」のが美しいという捉え方でもあったのだろうか?
マクミランの『ロミオとジュリエット』も『マノン』も、ドラマチックで好きではあるのだが、この映画でダンサーに寄った視点で踊りを見ると、あらためて、「女性ダンサーをぶんぶん振り回す振付だな」と思った(笑)。ジュリエットが、親が勝手に決めた婚約者パリスと気のないダンスを踊る場面、逆にロミオと激しい恋に身を焦がして踊る場面、どちらも「ぶんぶん」が効果を発揮しているのだが、「女性の体をなんだと思っているんだ?」と少し思わなくもない・・・。
あえて「舞台っぽさ」を出したと思われるこのシーン、ずらっと並んだダンサーたちを正面から捉え、おもむろに踊り出すところがシュールで好き。
エンドロールで流れる歌は、Dire Straits「Romeo And Juliet」。この歌、初めて知った。1980年に発表されたそう。こういう歌でバレエの余韻に浸れるのも、映画ならでは。
古典となったバレエ映画『赤い靴』はせりふもある作品だが、あまりきちんと見たことがないような気がするので、見たくなった。この映画のように、今回の『ロミオとジュリエット』も名作として残るかな?
【作品情報】
CAST
ジュリエット:フランチェスカ・ヘイワード
ロミオ:ウィリアム・ブレイスウェル
ティボルト:マシュー・ボール
マキューシオ:マルセリ-ノ・サンベ
ベンヴォーリオ:ジェームズ・ヘイ
パリス:トーマス・ムック
キャピュレット卿:クリストファー・サウンダース
キャピュレット夫人:クリステン・マクナリ-
乳母:ロマニー・パイダク
ローレンス神父:ベネット・ガートサイド
ロザライン:金子扶生
STAFF
監督:マイケル・ナン
撮影監督:ウィリアム・トレヴィット
振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
美術:ニコラス・ジョージアディス
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