Candoco Dance Company「Let's Talk About Dis」

Candocoは、1991年創設の、障害のあるダンサーと障害のないダンサーによる、イギリスのダンス・カンパニーです。2003~06年には、日本のダンサー・振付家でろう者の南村千里氏が所属していました。有名なのでカンパニー名は知っていましたが、作品を見るのは今回が初めてでした。

上演は、40分ほどのパフォーマンスと、その後に出演者や制作者による20~30分のトークで構成されていました。

このパフォーマンスは2014年に制作され、出演者たちの体験などを盛り込んだ自伝的な内容です。

タイトル「Let's Talk About Dis」(直訳は「これ[障害]について話そう」)のdisはthisの非標準的なつづりらしく、disabilityのdisと掛けているのだと思います。

ダンサー・振付家ではなく、言語と身体表現を追求している美術家・映画監督(ビジュアル・アーティスト)のHetain Patel(ヘテイン[ヘテン]・パテル)氏とのコラボレーションによる作品で、踊りの振付については専門家に相談しながら制作したそうです。

タイトルに「話そう」とあるのが象徴的で、文字通り「話す言葉(手話も含む)」が多用されていて、ダンスよりも言葉の要素の方が大きいかもしれません。出演者の中には、トークのときに、ダンサーというよりアーティストと自分を表現した人もいました。ただ、話すときには出演者の体があるわけで、身体性が強く迫ってくるという点で、演劇(やアートのパフォーマンス)というよりはやはりダンス作品だという気がします(こういうジャンル分けがかなり重要だと思っているわけではありませんが)。

出演者は、車いすを使う人、片脚がない人(パフォーマンス中に義足を付けたり外したりします)、片方の肘から下がない人、手話をする人(手話はろう者ではない人もしていました)、健常者など。

車いすでものすごく素早く移動したり、義足で舞ったりといった踊りも目を引きますが、印象深かったのは、1人のフランス人がフランス語を話し、別の人がそれを英語に「通訳」し、また別の人がそれを手話に「通訳」する場面や、今度は確かブラジル人がポルトガル語で話して、それを英語や手話に「通訳」する場面。

フランス語やポルトガル語に英語字幕などは出てきませんが、実は、フランス語の内容と、英語に「通訳」した内容はかなり異なっています。私のフランス語の理解力は英語よりさらに低いですが、フランス語が全く分からなくても、話すときの表情やジェスチャーや話す時間の長さから、どうやらきちんと訳してはいないらしい、ということは推測できるようになっています。そうすると、私はどこの国・地域の手話も分かりませんが、手話でも、もしかしたらフランス語とも英語とも違う内容を話しているのかな?と想像するわけです。

ローラさんというフランス出身のダンサーがフランス語で話していたのは、赤裸々な体験談でした。例えば、駅で、ローラさんの片方の肘から下がないのに気付いた子どもが、「ギャー」と叫んだから、「うわーっ」と脅かしてやったとか(たぶん、そういう話でした)。そういう話を、笑えて仕方ないといった調子で話します。でも、それだと直接的過ぎるから、英語ではもっと遠回しな話をするのです。イギリス人は礼儀正しいとか、short(背が低い)ではなくun-tallやnon-tall(背が高くない)、less tall(背がより高くない)と言おう、などというせりふが出てきて、英語の「通訳」ではきっと遠回しにしているのだろうと観客が気付ける仕掛けになっています。

冒頭では、「私たちのカンパニーは、障害のある人もない人もいるし、いろんな国の出身者がいるし、いろんな人種の・・・」と言い掛けて、出演者たちを改めて眺め、「人種はいろいろじゃなかった~」となる場面があります。

障害や人種などについて、本当は気になっているのに言い出せない、という現状を、ユーモアたっぷりに、ちょっときわどく、あぶり出していく作品です。

小難しくは全くありませんが(観客からは笑い声や掛け声・話し声がたくさん出ていました)、賢い作りの作品で、見る方も頭を使います。


パフォーマンスの後のトークでは、次のような話がありました。


・必ずlost in translation(翻訳によって失われる)は起こる。

・分からない言語が聞こえてくると、分かろうとして、話す人の言葉や話し方や体全体から熱心に聞き取ろうとする姿勢になるのが、いい。

・出演者の自伝的な内容だと、観客とのつながりが生まれやすい。

・political correctness(政治的な正しさ)を置き換えている。

・話し合いを通して作品にしていった。

・何度か上演しているが、公演ごとに少しずつ違う。

・質疑応答:メンタルヘルスのようにvisibleではない(目に見えない、一見して明らかではない)障害を、このようなパフォーマンスでどのように表現できるか?回答は、メンタルヘルスがこのような形であまり表現されていないのは確かにその通りで、しかし、どうやってできるかとなると答えるのは難しい、とのこと。

・質疑応答での感想:身体障害者を見てはいけないと通常はいわれているが、このような舞台では存分に見ていいというのが興味深い体験だった。このコメントに対して、出演者のローラさんは、気になった人のことはじっくり見ます、それが私です、と答えていました。


※この作品が上演された、イギリス・マンチェスター開催の医療・福祉がテーマの芸術祭「SICK! Festival」については、下記サイトで詳しく書いています。

ダンス評.com

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