寺杣彩、手代木花野、八木光太郎、木原浩太、三田瑤子、上村有紀「ヒトトヒトトトウキョウトト」せんがわ劇場

タイトルは「人と人と東京都と」だと思われる。「と」がいっぱい。東京都出身の振付家・ダンサーの寺杣彩氏が、東京都以外を出身地とするダンサーや俳優と、東京で暮らすことへの思いを探り、作品化。

寺杣彩氏をはじめ、出演者の数人は、会場のせんがわ劇場がある調布市を拠点とする加藤みや子からモダンダンスを学んだらしい。冒頭では、モダンダンスらしい(勝手なイメージだが)踊りが思いっきり展開。

そこから、駅で聞こえる音も生かした電車での通勤の様子や、カップ麺を狭いテーブルで食べる一人暮らしの人の様子などを描き出す。

一人一人が何かの動物になって動き回る場面では、動物番組よろしく、ナレーションで各動物の「生態」が語られる。威嚇したり、跳躍したり、他の動物を外から観察したり、ごますったり、けんかしたと思ったらくっついたりと、都会人となった人の性(さが)が動物の特徴に例えられている。ユーモラスだが身につまされて、笑うに笑えない。

圧巻は、コンタクトインプロヴィゼーションのダンサー(コンタクトインプロヴァイザー)で役者でもある手代木花野氏と、俳優だが、振付家・ダンサーの伊藤キム氏主宰のGEROに所属する八木光太郎氏の2人のシーン。最初は、肉付きのよい体格の八木氏が汗びっしょりになりながら一人で必死に動き回っている。そこへ、手代木氏の声のナレーションが入り、八木氏に「尊敬する人」について聞いていく。しばらくして手代木氏が舞台に登場し、今度は生声で質問を重ねながら、八木氏にコンタクトで「挑んで」いくのだ。

コンタクト(インプロヴィゼーション)は、接触(の即興)という意味で、人と人が触れ合いながら、押したり引いたりするようにして動きを積み重ねていくダンスのスタイル(私なりの理解では)。手代木氏が八木氏に文字通り体で絡みながら複雑なことを質問するので、八木氏は体の動きに反応してついていくのがやっとで、質問が頭に入ってこず、うまく答えられない。手代木氏は自在に予測のつかない動きをするので、八木氏は「そうくるか!」というせりふをはく。

しかし、手代木氏は何も好き勝手にやっているわけではおそらくなく、コンタクトで重要な「コミュニケーション」を体で取りながら、八木氏と一緒になって動いているのだ。ただ、体と言葉のコミュニケーションがややあべこべで、それで八木氏は戸惑ってしまった(という演技をしていた)のかもしれない。それはまるで、私たちが日々、他者と行っているコミュニケーションの比喩のようだ。体と言葉が裏腹になり、どうすればいいのか迷ってしまう。体にだけ素直に反応すればいいのにという単純な話ではなく、言葉でも非常に重要なことを語ろうとしている。言葉で語られた、「今ではもう亡くなってしまったけれど、自分を支えてくれた大切な人」の話が、次第に体の動きと重なるように見えてきて、見ている私も自分にとってのそういう人たちのことを思い出し、涙ぐんでしまった。

コミカルでユーモラスな要素と、しっとりさせる要素が絶妙に混じり合う、演劇的な味わいのある作品だが、それぞれ魅力的な個性のあるダンサーの踊りがどれも味わい深く、「すてきなダンス作品を見た」という深い感慨を抱いた。

音楽やナレーションもよく、最後の場面で登場する電飾など、道具の使い方も効果的だった。

あくせくした都会で生活しながら人とつながろうとすることについて、じんわりと考えさせられた。頭で考えさせられただけではなく、この舞台を見ていると自分の体が弾んだようになってきて、帰り道では、ばれないように控えめに踊りながら歩いた。見ていて踊り出したくなるダンスは、とてもすてきなダンス作品だと思う。

また機会があれば、寺杣彩氏の他の作品もぜひ見たい。


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振付・構成・出演:寺杣彩

出演:手代木花野、八木光太郎(GERO)、木原浩太、三田瑤子、上村有紀(Von・noズ)

美術:杉山佳乃子

音楽:フジモトヨシタカ

ナレーション:てらそままさき


6月19日(水)19:30

6月20日(木)14:30/18:30

上演時間:約1時間


前売:一般3000円、学生2500円/当日:3500円/親子割4200円/当日親子割5000円

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