梅田宏明+Somatic Field Project「2 - taxon」あうるすぽっと

ビジュアルアーティストでもある梅田宏明氏が、振付に加えてサウンド、映像、照明も手掛けた3作品を上演。2作は新作、あとの1作は2011年に制作された梅田氏のソロだ。劇場のロビーでは梅田氏の短いVR作品が展示されていた。


■Movement Research – slipstream(Somatic Field Projectダンサー出演 新作)

振付:梅田宏明

出演:中村優希、加賀田フェレナ、齊藤コン、京極朋彦、大塚郁実、小松菜々子、熊谷理沙、三田真央、原 正樹

サウンド・ライティングデザイン:S20


梅田氏が開発した「Kinetic Force Method」を用いたダンス作品。

どんなタイミングで次に誰がどんな動きをするかが予測しにくいため、緊張感を持って見た。いわゆる踊りっぽく大きく動く場面もあるが、かすかな動きで構成されているシーンも多い。

ダンサーがチェスの駒みたいに見えてくる。踊っていて、楽しいのだろうか?踊っているときに必ずしも楽しい必要はないとは思うが・・・。


■vibrance(ストリートダンサー出演 新作)

振付:梅田宏明

出演:AYUMI、Chika-J、YULI

サウンド・ライティングデザイン:S20


ストリートダンサー3人による作品。ストリートダンスを思わせる動きも見られるが、基本的には「Movement Research – slipstream」と同じシステムで組み立てられているように見え、だんだんこのシステムに慣れてきてしまったので、後半は眠気を必死に耐えた。このダンサーたちのストリートダンスが見たい、と思ってしまった。


■Holistic Strata(2011年)

山口情報芸術センター[YCAM]委嘱作品

振付・出演:梅田宏明

イメージ・ディレクション:S20

イメージ・プログラミング:S20、比嘉了、大西義人

システム・デザイン:比嘉了、大西義人

サウンド・デザイン:濱哲史(YCAM)、S20

ライティング・デザイン:高原文江(YCAM)、S20

衣装:片山涼子

センシング・エンジニア:大西義人、大理理智(YCAM)

ビデオ・エンジニア:大理理智(YCAM)

テクニカル・コーディネーション:岩田拓朗(YCAM)


梅田氏のソロ。冒頭、舞台が真っ暗になって、黒ずくめの梅田氏の全身に細かい白い水玉模様の照明が当たる(映写される)という演出に驚いた。抜群の視覚効果だ。

最初は緩慢な動きをしていたが、徐々に激しくなり、梅田氏の疲労が呼吸音とともに伝わってくる。

この作品も最初の2作品と同じで、音楽は電子音。周波数や音量がこれ以上大きくなると耳がもう耐えられないというほどキンキンした音が使われている。好みによるだろうが、私にとっては不快な音に近い。

黒い空間に白い点が多数現れる様は、宇宙のようでも電子世界(PCの中にいるみたい)のようでもある。有機と無機が併存しているようだ。

幻聴と幻覚の世界のようで、精神が危うくなりそうな気さえする。

人(梅田氏)が、肉体というよりもプロジェクションマッピングを映すスクリーンのようで、媒介物みたいに見えてくる。と思ったら、アフタートークで、人と周囲の環境(舞台)とどちらが図(?)でどちらが地か分からないようにしたかったと梅田氏が語っていた。

また、アフタートークでは、人間も自然物の一種だと捉えていて(それでも人間だから感情のようなものも出てしまうが)、今自分の体でやっていることを他のもので実現できるならそれでもいいし、人だけでなく水や植物にも振り付けてみたいとも言っていた。

作品では、身体が、自然物というよりは機械のようにも見えたのだが、梅田氏はロボットを振り付けることには興味がないのだろうか?

個人的には、梅田氏の作品に違和感、さらにはかすかな嫌悪感のようなものすら持ってしまったのだが、それは私が、キリスト教的人間中心主義(動物の命を奪ってはいけないからベジタリアンですと言いながら植物の命を奪うことは良しとする、同じように海に住んでいても卵を産む魚は食べていいが哺乳類は食べるべきではない、といった考え方もここから派生すると私には思われる)を嫌っていたはずなのに、実は自分がそれに毒されているせいなのかもしれない。身体が空間に溶け込んでいって、空間と一体化するような様子に、恐怖を覚えたのかもしれない。

しかし、ダンスが常に身体賛歌のようであるべきということはないし、私が好むダンスも、何も身体万歳を叫んでいるわけではないだろう。梅田氏の作品には不安感を増幅させられるようなところがあったが、それは私の中に何か偏った思い込みのようなものがあるせいではないかとも思った。梅田氏の作品は、見る人の信念の根っこを揺さぶるような力があるのかもしれない。

梅田氏とインターフェースデザイナーの中村勇吾氏によるアフタートークでは、「Kinetic Force Method」はまず立ち方をやり、脱力することを覚え、反力や遠心力などを利用して動くことを習得していく(こう聞くとコンテンポラリーダンスではどんなものでも共通して行われていることのように思えるが)こと、ストリートダンサーたちによる「vibrance」では、時間軸に沿って緩急や密度を伝えるスコアを各ダンサーに梅田氏が与え、それが何を表すのかを話し合いながら、具体的な動きは各ダンサーが主に作っていったこと、ソロの「Holistic Strata」はイメージをエンジニアに伝えて映像を作ってもらい、それを編集して、その映像に自分の動きを振り付けていったこと、学生のときは白黒写真を撮っていて、森山大道が好きで、その写真にも影響を受けていること、音楽制作は独学であること、なども語られた。

質問者の一人が、ダンサーが「人間に見えない」と言っていたが、私も作品を見ながらそう思った。そして、梅田氏の言うように「自然物」にも見えなくて、むしろ光の粒子みたいに見える。いや、それも「自然物」か。とにかく、「水」や「植物」よりももっと感情とかがそぎ落とされている存在に見えて、分子みたいな感じか。でも、肉体が激しい運動で息が荒くなり汗をかいていたのも事実で、まぎれもない人間でもある。人間が人間なのかそれとも他のものなのか両方なのか、なんだか分からなくなる。そんな身体の提示を行うのも、まぎれもなくダンスなのだろう。

このようなダンス体験は初めてかもしれない。梅田氏は美術としての作品発表も行っているが、今回の公演もアートのインスタレーションのようにも見えた。しかし、梅田氏ご本人も「コンテンポラリーダンス」とアフタートークで言っていたし、先述のようにこれはダンスなのだろう。「ダンスは多様」だということを、これまでとは違った角度から見せつけられ、再認識させられた公演だった。


ロビー(ホワイエ)で鑑賞できるようになっていた数分間のVR作品は、ヘッドホンと眼鏡を装着して体験する。電子音の音楽が流れて、黒地に白色の点や線のパターン(模様)が映し出される。下を向けば、ちゃんと下にも模様が展開されている空間が広がっている。少し酔いそうだった。


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【振付・演出】梅田宏明

【出演】

梅田宏明 AYUMI Chika-J YULI 中村優希 加賀田フェレナ 大塚郁実

京極朋彦 熊谷理沙 小松菜々子 齊藤コン 三田真央 原 正樹


<VRインスタレーション展示>

MUTEK.JPとのコラボレーションにより、梅田のVRインスタレーションのプロトタイプを展示。


6月15日(土曜) 15:00 / 19:00☆

6月16日(日曜) 15:00☆

☆=終演後ポストトークあり 出演:中村勇吾[インターフェースデザイナー](6/15) 畠中 実[NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]主任学芸員](6/16)

※上演時間は、約1時間30分(休憩15分あり)


全席指定

・一般 3,500円(当日4,000円)

・学生 2,500円

・豊島区民割引 3,300円

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