文化庁の在外研修でドイツのダンサーの環境を直接知った池上直子氏が、日本でも若いダンサーにダンスに集中できる環境を提供しようと、「ダンサー育成プロジェクト」を始動。オーディションで6人のダンサーを選び、クラウドファンディングなどを行って、今回の公演に向けてレッスンを行ってきた。
公演はダブルビルで、前半が池上直子氏とピアノ演奏のイーガル氏による「ジョルジュ・サンドの手紙」。後半は、「ダンサー育成プロジェクト」の6人のダンサーと、主演として迎えた児玉アリス氏と吉﨑裕哉氏による「Carmen カルメン」で、音楽は(主に?)ビゼーの楽曲を使用。
■「ジョルジュ・サンドの手紙」(35分)
出演:池上直子(ジョルジュ・サンド)、イーガル(ショパン、ピアノ演奏)
舞台の下手手前にピアノがあり、ピアニストが客席に背を向けて座っている。上手奥には机と椅子、コート掛けがあり、池上氏が椅子に座って手紙を書いているようだ。
池上氏のサンドは男装。とても細身で、白と黒の服がよく似合っている。踊りもスマートな感じで、これがいわゆるモダンダンスなのだろうか。クラシックバレエを基本に、フロアも使うが、あくまでも重心は上にあるようで、舞台から常に数センチ浮き上がっているような印象を与える。
ショパンと街を出て、海のある街に行き、今度は白いワンピースを着たサンドが手紙を書く。ショパンは作曲に熱中し、二人の仲が険悪になるが、また穏やかに仲睦まじくなる。ホッとできるラストだった。
音楽はショパンの有名な曲と、オリジナル曲が使われていたようだ。ピアノ演奏者がショパンを演じるという面白い演出。生演奏はやっぱり良い。音楽だけで泣きそうになってしまう。
大量の紙(手紙)を舞台上にばらまいてサンドの混乱を表すなど、興味深い趣向もあったが、ダンス全体の印象は、やや物足りなかった。もっと変化をつけた振付があっても良かったのではないか。
■「Carmen カルメン」(50分)
出演:児玉アリス(カルメン)、吉﨑裕哉(ホセ)、加藤美羽(運命・女たち)
有光藍、糸原聖美、新名かれん、前原星良、湯淺愛美(女たち)
オペラファンやバレエファンにはおなじみの題材を、カルメンの苦悩や孤独に焦点を合わせて、新たな作品にした。
カルメンを踊った児玉アリス氏は、メキシコのBallet de Monterreyでソリスト・主役を務めたダンサー。ホセ役の吉﨑裕哉氏は、Noismに所属していたダンサー。
吉﨑氏は背が高く、体つきもがっしりしていて、ホセにぴったりで、かっこよかった。踊りのキレというか逆に「ため方」というのか、別格の感があった。とても小柄な児玉氏はチャーミングな踊り。二人のシーンは少しエロティックなところもあり、ドキドキさせられる。
カルメンが、何かつらい過去を思い出しているのか、苦しんだり、他の女たちから疎外されたり、といった要素が強調されていた。そのために、いろいろな男と遊んでつらいことを紛らわそうとしているのだろうか。
舞台では、姿見のようなものに車輪が付いたものをダンサーたちが動かして、効果的に使っていた。片面は鏡、もう片面はザラザラしたコルク材か木のように見えるものだった。
ホセが舞台手前にいて、天井から幕が下りてきて、その幕に大きな影が映る演出で、カルメンが他の男と懇意にしている様子を見せ、それをホセが目撃してしまう、という場面も、工夫されていて、面白かった。
ところどころで、6人の女性ダンサーたちの一人が演じる「運命」が登場し、ラストでホセがカルメンを刺してしまう場面では、その「運命」がカルメンを刺す仕草をする。その前の場面でカルメンが引いたカードがきっと死神か何かだったのだろう。ラストシーンは少し泣きそうになった。
愛しているがゆえの嫉妬。カルメンを愛しているのに信じきれないホセ。ホセを試すように他の男と遊んでしまうカルメン。独占しようとするのは、愛なのだろうか?自分が何をしても許せと迫るのは、愛なのだろうか?
オーディションで選ばれた6人の女性ダンサーたちは、時に大胆な振付の動きをし、主演と作品全体を盛り立てる演技力も発揮した踊りで、印象に残った。彼女たちは全員、幼いころからクラシックバレエを習い、ずっと踊り続けてきたらしい。モダンダンスやコンテンポラリーダンスも踊ってきているそうなので、今後も幅広い踊りも見せてほしいと思う。
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「ジョルジュ・サンドの手紙」(35分)
フランス女流作家・男装の麗人とも呼ばれ初期のフェミニスト。またフレデリック・ショパンの恋人でもあり、1000通にも及ぶ自分の想いの手紙を各方面に送り続けた。
出演:池上直子(ジョルジュ・サンド)、イーガル(ショパン、ピアノ演奏)
音楽監督・作曲:イーガル
音楽編集:鉾山純也
衣装:TASTUO
<休憩15分>
Dance Marche ダンサー育成プロジェクト作品
「Carmen カルメン」(50分)
カルメンは、はじめから「魔性の女」なのだろうか?ロマ人(ジプシー)として生まれ、差別や迫害をされてきたカルメン。愛は生き抜く術のひとつであったかもしれない・・・。運命とは宿命とは・・・。カルメンは、現代の自立した女性の写し鏡であるよう。
出演:児玉アリス(カルメン)、吉﨑裕哉(ホセ)、加藤美羽(運命・女たち)
有光藍、糸原聖美、新名かれん、前原星良、湯淺愛美(女たち)
振付・構成:池上直子
衣装:藤森左知(Sachi Costume)、菊地はるえ、成本愛子
2019年6月13日(木) 19時、6月14日(金) 14時/19時
前売:4500円(U-24 3500円)/当日:4800円(U-24 3800円)
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