「シナモン―言葉の破片による動体彫刻―」
原作:ブルーノ・シュルツの短編「肉桂色の店」
構成・演出・照明・衣装・選曲・出演:勅使河原三郎
出演:佐東利穂子(朗読も)、加藤梨花、村山恵実子
風変わりらしい「父」のことや、夜の雪道を行く「私」のことを語る一人称の朗読が録音でところどころ流れ、勅使河原三郎氏のカラス・アパラタスのホールでの公演でも聞こえてくるような音楽が流れる中、シンプルな舞台を照明が変化させていく。
勅使河原三郎氏と佐東利穂子氏の流れるようなダンス。そして、照明が舞台の手前にだけ当たる中で踊られた勅使河原氏のソロは、全身が痙攣し、振付を踊っているというより、体が熱伝導体のように踊りが全身を駆け巡って「踊らされて」いるようだ。本当はそんなはずはないのだが、そのように見えてしまう身体は神々しさのようなものを帯びる。
「父」を踊っていたと思われる勅使河原氏が、佐東氏が踊る「私」が乗る馬車の馬になって、何周も何周も馬として愚直にとも思える真摯さで駆けている姿に目を奪われた。
加藤梨花氏と村山恵実子氏は、どちらかは分からないのだが、床に転がり、頭部だけが照明の中に浮かび上がり、その頭を激しく振る場面などがあった。巻き毛がわしゃわしゃと動き、あれは犬だったのだろうか?そうだとしたら、驚くべき表現方法だ。
終盤で物悲しい曲を背景に踊る勅使河原氏と佐東氏を見ながら、少し涙ぐんでしまった。なぜか切ない。
原作は事前に日本語訳で少し読んでいたのだが、公演の間、ヨーロッパの片隅に連れていかれたような気がした。
観客席の濃密な一体感も不思議な感覚だった。ラスト、照明がふっと消えた瞬間に、隣の客が「ほぅ」とため息をつくのが聞こえる。私たちみんなで、ある情景を一緒に目撃していたのだ。
※上記画像は下記サイトより。
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