「NIPPON・CHA!CHA!CHA!」は、如月小春氏が1988年に書いた戯曲で、1964年東京オリンピックを題材にしている。それを、2020年東京オリンピック・パラリンピックを前に、ダンスカンパニーCo.山田うん主宰の山田うん氏が、演劇として演出したものと、新作ダンスとして振り付けたものを、連続上演した。
物語は、飛行機事故によって両親を失った男子高校生が、結婚している姉とともに残され、大学には進学せずに働くと決めたことから始まる。「みんなの夢をのみ込んで、何か大きいことがしたい」と言う。つぶれそうな運動靴の会社に就職を頼み込みに行くと、足が速いことを買われ、会社の再起をかけて、会社の運動靴を履いてマラソンでの優勝を目指すことになる。ひいてはオリンピック出場だ!と小さな町全体で盛り上がるがーー。
主演の少年を演じるのは、お笑いコンビ「まえだまえだ」や俳優として活躍する前田旺志郎氏。山田うん氏も演劇版に登場する。演劇版に俳優が、ダンス版にCo.山田うん所属のダンサーが出演しているのはもちろんのこと、俳優もダンサーも両方に出演する人が何人もいる。しかも、巧みな歌を披露する人も。
演劇版の途中に10分の休憩があるが、それ以外は、演劇版の直後にダンス版を上演するというぶっ続け。時間としては演劇版の方が長く、メインという印象。
演劇版の演出は、オーソドックスと言えると思う。入れ子構造になっていて、何が現実でどれが夢か、というテーマに関わるようになっている。ダンサーたちもメインキャストを務め、知らないで見たら普通に俳優だと思うであろう高い演技力に驚く。
戯曲の内容は、オリンピックに湧き、選手たちに夢を託すと同時に、選手たちに夢を体現させ、人間として生きることよりも国の繁栄のために全てをささげて全てを犠牲にすることを求めて競技に臨ませ、かつ勝利することを強いた国民の姿を皮肉っている。しかし、主役の少年やその周囲の一部の大人たちの気持ちはあくまでも真っすぐで、だからこそ残酷性が際立つ。
「期待」という名の暴力。これは、例えば親から子への教育熱という名の虐待など、現代にも見られる現象ではないだろうか。自分の夢を他者に体現させようと押し付けることは、その他者を人として抹消するに等しい。
ダンス版は、白いシンプルな衣装で、群舞の連なりと時折挿入されるソロで構成される。山田うん氏の振付においては、この作品に限らずだが、パフォーマーたちはよく走る。また、静止と動き出すのを繰り返すさまが、大人たちの夢と欲望を少年が受け取り頑張ってしまうのを表しているようだった。
演劇を一作丸々演じ切った直後に、演劇で主要な役を務めた人たちも含むパフォーマーたちがバリバリに踊るのだから、それだけで感動してしまう。前田旺志郎氏もガンガン踊る。皆さんの多才ぶりに感服。
演技もダンスも歌もこなす出演者たちと、演劇の演出もダンスの振付も演技もこなす山田うん氏に心底感心してしまい、ダンス自体がダンスとしてどうかという点にはなかなか気が回らなかった・・・。
舞台奥が浅いピットになっていて音楽の演奏者たちが座り、下手にはピアノ。演奏者たちが演劇版でせりふを言う場面もあって、笑いを誘う。演劇版の最後には、さながらミュージカルな場面もあった。
公演情報
KAAT DANCE SERIES2019「NIPPON・CHA!CHA!CHA!」
KAAT(神奈川芸術劇場)大スタジオ
2020年01月10日(金)~2020年01月19日(日)
上演時間:2時間45分(演劇・ダンス連続上演 途中休憩含む)
全席指定。
一般6,000円、U24(24歳以下)3,000円、高校生以下1,000円、シルバー割引(満65歳以上)5,500円
平日公演:一般5,500円、U24(24歳以下)2,750円、シルバー割引(満65歳以上)5,000円
作:如月小春
構成・振付・演出:山田うん
音楽:ヲノサトル
空間構成:光嶋裕介
照明:櫛田晃代
音響:江澤千香子
衣裳:池田木綿子
ヘアメイク指導:谷口ユリエ
演出助手:齋藤亮介
舞台監督:原口佳子
出演:
<ダンス版>
前田旺志郎
飯森沙百合 伊藤壮太郎 黒田勇 長谷川暢 山口将太朗 山根海音 吉﨑裕哉
<演劇版>
前田旺志郎
菅沼岳 鈴木陽丈 長谷川暢 松本涼花 村岡哲至
山口将太朗 山根海音 吉﨑裕哉
山田うん/平川和宏
【演奏】 BLACK VELVETS (ブラックベルベッツ)
(田中邦和 saxophone、山口とも percussion、ヲノサトル organ、テラシィイ guitar)
【街の人々(ウェイトレス・女子高生・ランナー他】
飯森沙百合 伊藤壮太郎 黒田勇
赤松怜音・池田紫陽・大條瑞希・亀井梨花・栗下莉佳・鈴木紫乃・鈴木里衣菜・竹内沙織・長谷川陽花・林麻子・村田小万里・三浦加利奈・宮部大駿
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