白井剛、川村美紀子、新人Hソケリッサ!、鈴木ユキオ etc.「DANCE TRUCK TOKYO: 2019-2020」新宿中央公園・水の広場

「DANCE TRUCK TOKYO」は、屋外で輸送トラックの後ろを開けて荷台を舞台にし、コンテンポラリーダンス(や音楽ライブ)の公演を行うプロジェクト。屋外に止めたトラックを用い、座席はなく、観客は立ち見か地面に座って見るとはいえ、トラックの荷台の中は黒く塗ってあり、音響設備や照明はなかなか大掛かりに見える。トラックは、太陽光発電システムと蓄電池を搭載しているらしい。

▼「DANCE TRUCK TOKYO」ウェブサイト↓

このプロジェクトは、「全日本ダンストラック協会」が企画・制作し、2020年東京開催のオリンピック・パラリンピック関連の芸術事業「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」として実施されている。主催は東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京。

▼「全日本ダンストラック協会」ウェブサイト↓

2019年秋から1年をかけて、東京都区部・多摩地区・島しょの15カ所で開催するという。2019年は5カ所(新宿・足立・狛江・渋谷・府中)で開催予定で、各会場の出演アーティストもすでに発表されている。

15カ所の開催地に合わせて、「DANCE TRUCK TOKYO」のウェブサイトで、「東京の15のはなし」を順次公開。15人の作家が1つずつストーリーを書くという。「vol. 1 新宿:スミマサノリ(ライター・文芸作家/劇団SAIGEN)」が公開中。

▼「DANCE TRUCK TOKYO」公式ウェブサイトの「STORY」↓

キュレーターは、コンテンポラリーダンサーの東野祥子氏、白井剛氏、鈴木ユキオ氏が務める。

▼「DANCE TRUCK TOKYO」キュレーターの東野祥子氏、白井剛氏、鈴木ユキオ氏の「CINRA.NET」インタビュー↓

初回の新宿会場には、結構、人が集まっていた。少なくとも100人くらいはいただろうか。トラックの荷台部分の後方を開けて舞台とするので、意外と幅が狭い。よほど真正面から見ないと、ダンサーが荷台の奥にいるときはほぼ見えない。早くから来た人がトラックに近いスペースに、何か敷いたりしながら座っていた。お酒を飲みながら鑑賞している人もいたし、屋台だろうか、ピザなども売っていたようだ。ちょっと遅い夏祭りみたいな雰囲気。

会場の新宿中央公園の最寄り駅は「都庁前」駅だが、新宿駅から真っすぐの大通りを歩いて来ることもできる。トラックが止まっていた「水の広場」は、公園の入り口のところだ。トラックの舞台を眺めると、ちょうど後方右手に都庁の建物が見える。夜だったので、都庁は、オリンピック・パラリンピックの五輪の色だろうか、カラフルにライトアップされていた。


■ANTIBODIES Collective「AxCx」

演出・出演:東野祥子/出演:吉川千恵、矢島みなみ、石橋源士、加藤律、田路紅瑠美、尾身美苗/音楽・演出:カジワラトシオ/空間演出:OLEO/映像:斎藤洋平/美術スタッフ:mc las、djcj、殺助

残念ながら、冒頭のこの作品だけ見逃した。本プロジェクトのキュレーターの一人、東野祥子氏による作品。

▼ANTIBODIES Collectiveのウェブサイト↓


■白井剛、森川祐護「Passage on Blur (op.3_truck/15)」

作・出演:白井剛、森川祐護(Polygon Head)

DANCE TRUCK TOKYOのキュレーター、白井剛氏は、森川祐護氏のギターによる音楽でパフォーマンス。白井氏の身体は、どういうつくりなのだろう?と見るたび不思議に思う。体重がないかのように軽々とひょうひょうと踊るのだが、すごく真剣みはあるようなダンス。途中で、「バンドです」と言い、ギターを演奏したり歌おうとしてみたり。トラックから飛び出して、周囲を駆け回り、踊る。帽子を観客の方に放り投げる。自由を感じて、見ているこちらも体が軽くなりふわりと宙に浮く感覚になる。

▼白井剛のウェブサイト↓

▼森川祐護(Polygon Head)のウェブサイト↓


■川村美紀子「2000-20004:かつしかシンフォニーヒルズに於て」

出演:川村美紀子

ピアノ演奏会という設定で、アナウンスで作曲家名と曲名と「ピアノ:川村美紀子さん」という声が流れる。するとその曲が流れ、川村氏が踊り出す。それが4回くらい繰り返された。曲はクラシックなどで、どの曲も、誰もが聞いたことのあるものだが、ファンキーな感じにアレンジされている。大音響で曲が鳴り響く。川村氏のダンスも最高にファンキーだ。踊り狂い、「イッチャッテル」感じ。1曲踊るたびに疲れ切っているように見えるが、また踊り出す。エネルギッシュに動き回り、出し切る。1曲終わるごとに、ピアニストがお辞儀をするように、観客に向かってお辞儀する。

冒頭で、履いていたヒールの靴を脱ぎ捨てて踊り出し、途中で靴を投げつけたりするさまに、最近の「#KuToo」(職場でのヒールやパンプスの靴の強制をやめさせようとする、SNSでの運動。KuTooは「靴」と「苦痛」に、性暴力に声を上げる「#MeToo」を掛けている)を思った。ワンピースを着て、体を酷使するようにヘトヘトになりながら踊るのも、全てを理不尽に押し付けられて職場でも家でも働きづめの女性の姿や、それに何とかあらがい、逃れ、飛び立とうとする女性の姿が見える気がした(そのときの一つの印象として)。なぜか泣けた。川村氏のダンスをもっと見たい。

▼川村美紀子のウェブサイト↓


■新人Hソケリッサ!「震える洞穴~トーキョーファイト~」

振付:アオキ裕キ/出演:横内真人、伊藤春夫、渡邉芳治、西篤近、山下幸治、アオキ裕キ

名前は知っていたが、初めて見る「新人Hソケリッサ!」のダンス。ダンサー・振付家のアオキ裕キ氏が、ホームレスの人たちの身体を見て興味を持ち、彼らとダンスグループを結成した。イギリスなど世界中で、「With One Voice」という、ホームレスの人がアート活動を行うプロジェクトが実施されていて、「新人Hソケリッサ!」も参加したことがあるそうだ。

冒頭でアオキ氏が、トラックの横にある(回転している?)機械に何かを放り入れると、ガランゴロンというような音が鳴り続ける。後半は曲が流れる。ホームレスの人たちは(一人一人お名前とお顔が一致せずこのような表現になって申し訳ないが)、ゆっくり動いたり、Tシャツを脱いで立派なおなかを披露したりし、アオキ氏と触れ合う。彼らのダンスを見ながら、なんか、人のことをじっくり見たり、人に触れたりするのって、大事なことだよなあと思う。触れることで救えることがあるように思う。なんだか元気をもらった。

▼新人Hソケリッサ!のウェブサイト↓

▼「With One Voice」ウェブサイト↓


■ZVIZMO(伊藤篤宏×テンテンコ)「ZVIZMO dance truck live」

出演:ZVIZMO(伊藤篤宏×テンテンコ)

エレクトロニックな音楽ミニライブ。伊藤篤宏氏が演奏していた蛍光灯の楽器にびっくりしたが、「蛍光灯音具OPTRON(オプトロン)」というらしい。普段こういう音楽は聞かないが、意外と心地いい感じもする。テンテンコ氏が音を出しながら音楽に乗っている動きが、ダンスみたいだった。2人が互いの音を聞きながら奏でていたのにも好感を持った。

▼ZVIZMO(伊藤篤宏×テンテンコ)のウェブサイト↓


■鈴木ユキオ「Imagine 新宿 We are always dreamers.」

振付・出演:鈴木ユキオ

DANCE TRUCK TOKYOのキュレーター、鈴木ユキオ氏は、ダンスが終わった後に叫んでいたように、「LOVE & PEACE」(愛と平和)のパフォーマンス。曲は、ジョン・レノンの「Imagine」を日本語詞にした忌野清志郎氏の歌「イマジン」だったのだろうか。また、それとは別に、日本語の詩も読んでいた。何の詩だったのだろうか?

ウサギのマスクを頭にかぶって登場。アナウンスで動きの指示が流れる。トラックの前でその指示に従って動き、トラックに飛び乗る。ウサギのマスクは取るが、その後もしばらく指示は続く。指示に動かされる人間。詩は、孤独やそれでも持ち続ける希望を語っているように聞こえた。歌もすごく良い。詩や歌の言葉にも助けられたダンスだったように思ったが、巧みで、泣かされた。ベタかもしれないが、引き付けられた。いろんな人に見てほしい。

▼鈴木ユキオのウェブサイト↓


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2019年9月5日(木)18:30~20:30 ※実際は21:00前まで行われた

無料、事前予約不要

鑑賞には座席はなく、立ち見(または地面に座る)

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