イデビアン・クルー「幻想振動」東京芸術劇場 シアターイースト

「芸劇dance」シリーズの公演。イデビアン・クルーの井手茂太氏と斉藤美音子氏に、公募で選ばれてワークショップ参加を経た「エキストラ・クルー」が加わったダンス作品。

長方形の舞台の三方に客席があり、舞台はブルーシートで覆われている。出演者の出入り口は数カ所ある。井手氏と斉藤氏がバラバラに登場し、互いに未知の人であるかのように出会う。ブルーシートを引きずりながらはがすと、舞台の中央に畳のような空間があり、両脇には白い石が並んでいて日本庭園を思わせる。

井手氏はパパイヤ鈴木氏を思わせる体型で、畳の上に横たわった井手氏のおなかの辺りを斉藤氏がつかんで、ゴロゴロと転がらせる動きはユーモラス。しかし、最初は見ていて少し眠気が襲ってきた。

後半、モーリス・ベジャール振付の「ボレロ」のパロディーみたいな場面が始めると、格段に面白くなった。モーリス・ラヴェルのおなじみの同名曲が流れ、畳をオリジナルの赤い円卓に見立てて、その上で斉藤氏が踊り出す。オリジナルの「ボレロ」っぽい動きだ。「っぽい」のがポイント。斉藤氏を押しのけて、井手氏が畳の上で主役になり、また斉藤氏にその役を奪われる。畳の周囲でオリジナルの群舞「っぽい」踊りを踊るのは、「エキストラ・クルー」たちだ。

ベジャールの「ボレロ」の主役はシルヴィ・ギエムなどが踊っていて、幸いにも東京でギエムの公演を見たことがある(東京バレエ団の日本人ダンサーが踊る公演も見たが、ギエムの印象が鮮烈、強烈に残っている)。主役も群舞もまともに踊れば相当ハードなはずだが、音楽が刻むリズムとそれに合わせて繰り返される振付は、見る者に「まねして踊ってみたい」と思わせるところがあるのではないだろうか。

でも普通は、「プロのダンサーじゃないし、あんなテクニックは到底できないし、絶対無理」と思うのだが、今回の公演では、それをやってしまっていた!「やっぱり、まねしたくなりますよね?!なんだ、誰でもできるんじゃん!(笑)」と思わせてしまう圧倒的なパワーが感じられる。プロのダンサーでない人も多いと思われる「エキストラ・クルー」を起用したからこそ出る効果なのだろう。斉藤氏や井手氏も、漫画「ドラゴンボール」に出てくる必殺技「かめはめ波」みたいな手振りをして、その手を向けられた群舞たちは倒れて「やられて」いく。もう笑いが止まらない!

ベジャールの「ボレロ」のラストは、音楽と踊りがかなり分かりやすい形で終わり、高揚感が最高潮に達して、終わった途端に観客が割れんばかりの拍手をするのが常だが、今回の公演では、音楽がバシッと決まった後、「でも、これで終わりじゃないよね?拍手するところじゃないよね?」と戸惑い、ためらい、結局、観客の誰も拍手をしなかった。たぶん、しないのが正解で、そんな観客の気まずさも作品の一部になっているのかもしれない。

ベジャールの「ボレロ」はかなり好きなのだが、確立された「巨匠」「名作」のイメージを揺さぶるような今回の「ボレロ」も、たまらなくおかしく、何だかいとおしい。

「ボレロ」が終わってからの、斉藤氏と井手氏の2人のダンスは、キレッキレでとてもかっこよかった。そのまま満足して、終演。

「エキストラ・クルー」の公演への参加は、応募したが採用されなかった人たちや、出演者の家族も、公演を見に来ることが見込まれるので、チケット販売の点からも上手なやり方だと思った。

初めてのイデビアン・クルー体験だったが、クセになりそうだ。


---------------

2019年7月26日 (金) ~7月28日 (日) 


振付・演出:井手茂太

出演:斉藤美音子、井手茂太


スタッフ

衣裳:ひびのこづえ 照明:高円敦美 音響:島猛

舞台美術:青木拓也 舞台監督:横尾友広

宣伝美術:秋澤一彰 宣伝写真:牧野智晃

宣伝ヘアメイク:中井正人 西平晃

企画制作:days


一般:前売4,500円 当日5,000円

未就学児:1,000円

(3歳以下は保護者の膝上で鑑賞する場合のみ無料/保護者1名につき子ども1名まで)

高校生以下:1,000円 25歳以下:3,000円 65歳以上:3,500円

---------------

ダンス評.com

ダンス公演や映像の批評(レビュー)、ダンス・舞踊情報。踊りのジャンルはコンテンポラリーダンスでもバレエでもなるべく何でも。