金森穣、Noism1「Mirroring Memories―それは尊き光のごとく/Fratres Ⅰ」めぐろパーシモンホール 大ホール

「Noism 15周年記念公演」と銘打ち、金森穣氏とNoism1が、これまでの作品の抜粋を組み合わせた作品「Mirroring Memories―それは尊き光のごとく」(1つ新作を含む)と、新作「Fratres Ⅰ」を上演。

「Mirroring Memories―それは尊き光のごとく」は元の作品をどれも見たことがなく、文脈や細かいニュアンスは分からなかったが、それでも、驚きに満ちた演出と確かなテクニックと踊ることへの喜びが詰まっている舞台に、至福を感じた。

冒頭、舞台上方のスクリーンには、若かりしころの金森氏と思われる人とモーリス・ベジャール氏の写真が映し出され、ベジャール氏へのオマージュのようにもなっている。

姿見のような鏡が幾つも横に並べられた舞台に、黒子のダンサーが登場し、鏡はドアともなって、作品の切れ目では同じ短い曲が流れて、全体に統一感を持たせている。

冒頭の金森氏のソロに早くも涙ぐみ、これではこの後の場面が見劣りするのではないかと心配したが、杞憂に終わった。次の、人形の男女とそれぞれの人形遣いのダンスは、人形としての動きが巧みで、操られる人間の運命を見せているようで、物悲しく、素晴らしかった。

金森氏と、同氏の公私ともにパートナーの井関佐和子氏の、バレエのテクニックが隅々まで浸透しているコントロールされた身体を、割と近くから見られただけでも、幸福だ。二人のデュオは優しく、心が洗われるよう。

他のダンサーたちも美しい踊りで、特に「マッチ売りの話」からラストまでのシーンは心に残った。不幸な事件が起こってしまってから、そうなる前に周囲の人ができることがあったのではないかと後悔することが多過ぎる現代の日本社会を映し出しているよう。マッチ売りの少女らしき浅海侑加氏と、金森氏と井関氏が、イエス、マリア、ヨセフの聖家族のように三角形に近い形でたたずむ。

全体的に美しかったが、暗い悲しみの中に一筋の光や希望を思わせる作品だった。

新作「Fratres Ⅰ」も、暗い世の中を現出させたような厳かな作品に感じられた。黒ずくめのダンサーたち全員が座っているところから徐々に動き始める。むき出しの両腕が暗い舞台に白く浮き上がる。服に付いているフードをかぶったそれぞれのダンサーたちの頭上に、黄金色の照明に照らされた砂がザアザア降ってくる。舞台上に積もった砂をザアザア言わせながら足を動かす。

「Fratres」は「親族、兄弟、同士」を表すラテン語だという。公演パンフレットには、現代社会で他者とのかかわりが希薄になりつつある、と書かれている。この作品のダンサーたちは、周囲に仲間がいるのに孤独に闘い、でも実は同じ動きをして同じ方向を向いているのだ、というふうに見えた。

カーテンコールは、熱い拍手とスタンディングオベーション。Noismの存続の危機が報道されているためか、観客たちも応援の気持ちを伝えたかったのだろう。

休日の日中だったためか、観客の年齢層は高めだったようだ。Noismのダンスはバレエをしたり見たりする人にもなじみやすく、それでいてハイレベルなので、25歳以下はチケット代が3500円とお得なのだし、もっと若い人が見に来てもいいように思うが、そこまで若者の関心を集めていないのだろうか?


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『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』

※毎日芸術賞受賞作品

※新潟初演

演出振付:金森穣

照明デザイン:伊藤雅一(RYU)、金森穣

衣裳:堂本教子、中嶋佑一、Eatable of Many Orders、宮前義之(ISSEY MIYAKE)

映像:遠藤龍

出演:Noism1+金森穣


00 『Distant Memory』 (2018年)

01 『Nameless Hands-人形の家』より「彼と彼女」(2008年)

02 『Nameless Poison-黒衣の僧』より「病んだ医者と貞操な娼婦」(2009年)

03 劇的舞踊『ホフマン物語』より「アントニアの病」(2010年)

04 劇的舞踊『カルメン』より「ミカエラの孤独」(2014年)

05 『Nameless Voice』より「シーン9 -家族」(2012年)

06 『Psychic 3.11』より「Contrapunctus」(2011年)

07 『ASU』より「生贄」(2014年)

08 劇的舞踊『ラ・バヤデールー幻の国』より「ミランの幻影」(2016年)

09 『ZAZA』より「群れ」(2013年)

10 『マッチ売りの話』より「拭えぬ原罪」(2017年)

11 『Schmerzen(痛み)』(2019年)*新作

12 『Träume-それは尊き光のごとく』 (2018年)

新作『Fratres Ⅰ』

※Noism設立15周年記念作品

演出振付:金森穣

音楽:アルヴォ・ペルト 《Fratres for strings and percussion》

衣裳:堂本教子

照明デザイン:伊藤雅一(RYU)、金森穣

出演:Noism1+金森穣


新潟公演

日時:2019.7.19(金)19:00 /7.20(土)17:00 /7.21(日)15:00★

※上演時間90分(途中休憩含む)

★金森穣によるアフタートーク開催

会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉

入場料:S席4,000円 A席3,000円/U25 S席3,200円 A席2,400円(税込・全席指定)

※U25=25歳以下対象・入場時要身分証。N-PACmate等他の割引と併用可能。


東京公演

日時:2019.7.26(金)19:00/7.27(土)17:00/7.28(日)15:00

※上演時間90分(途中休憩含む)

会場:めぐろパーシモンホール〈大ホール〉

入場料:一般 5,500円/U25 3,500円(全席指定)

※U25=25歳以下対象・入場時要身分証。N-PACmate等他の割引と併用可能。

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Noism 15周年記念公演『Mirroring Memories』『Fratres Ⅰ』 | Noism Web Site

これから始まる新たな時代に、我々は何を求め、見出していくのか。 舞踊団として15年を経た今だからこそ上演する2作品。 [新潟]2019.7.19(金)– 7.21(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉 [東京]2019.7.26(金)− 7.28(日) めぐろパーシモンホール〈大ホール〉 INTRODUCTION 日本初の公共劇場専属舞踊団として、2004年にりゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館で誕生したNoism。芸術監督の金森穣のもと、りゅーとぴあで創った作品を国内外で上演し、新潟から世界へ向けて活動しています。今年は設立15周年を記念してNoism1による『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』と、新作『Fratres Ⅰ』を上演します。『Mirroring Memories』は、バレエでもモダンでもコンテンポラリーでも演劇でもない、独自の舞台を生み出すこと、すなわち「no・ism(無主義)」の活動を続けるなかで創作してきた作品から、黒衣にまつわる10のシーンを抜粋し、金森自身が出演する2作品を加えて新解釈で構成したオムニバス作品。〈上野の森バレエホリデイ2018〉での特別上演が好評を博し、金森の毎日芸術賞受賞にもつながりました。同時に発表する最新作は『FratresⅠ』。「Fratres(フラトレス)」とは、ラテン語で親族、兄弟、同士を意味しています。他者との関わりが希薄になりつつある現代社会のなかで、あえて同士を求め、集団での芸術活動を行う私たちNoismが、今この作品を発表すること。それは、タイトルの意味するところを表現するためではなく、この創作と上演を通して、"その意味するところ"を"集団的に"見出すためです。これから始まる新たな時代に、我々は何を求め、見出していくのか。15年を経た今だからこそ上演するNoismの2作品です。 Noism 15周年記念公演 *毎日芸術賞受賞作品 『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』*新潟初演 演出振付:金森穣 照明デザイン:伊藤雅一(RYU)、金森穣 衣裳:堂本教子、中嶋佑一、Eatable of Many Orders、宮前義之(ISSEY

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