菅尾なぎさ、クリウィムバアニー(crewimburnny)「NΔU」シアタートラム

菅尾なぎさ氏主宰のクリウィムバアニーの新作公演。

中央に長方形の舞台空間(台にはなっていないが)があり、その長辺に沿って両側に客席が設けられている。長辺にはそれぞれ4台ほどの液晶画面(モニター)が掲げられている。

舞台空間には、間を人が通り抜けられる柵で囲ったような物体が幾つかと小型の台のようなもの、UFOキャッチャー、お菓子などが置いてある。液晶画面にはそれぞれ、スマートフォン(スマホ)のLINE(メッセージアプリ)の画面、出演者と思われる女性2人が街を移動する映像、人けのない薄暗い空間などが映し出されている。舞台空間には、床に穴が開いている空間が2つある。1つは下が見えず、もう1つにはPCや音響用の機械が置いてあり、音楽担当のDaisuke Tanabe氏が座っている。

出演者たちと思われる人たちの声を加工した音声と、合成音声のような音声で、「客席でのご飲食、撮影、録音、録画はご遠慮ください。携帯電話は電源をお切りください。間もなく開演です」といったメッセージが、開演の何分か前と開演直前に2回流れた(と思う)。

客席の間の通路などを通ってダンサーたちが登場。みんなスマホを持っていて、けだるそうなつまらそうな態度で歩き回ったり、寝転んだり、しゃがんだりし、お菓子を食べたり、サイコロを床で振ってその写真をスマホで撮ってLINEで送ったりしている(と思われる)。ずっと同じメロディーの音楽が小さく流れていて、出演者たちがLINEを送信するごとに、「LINE(ライン)」という音声が流れて、液晶画面に映っているLINEのタイムラインに送信した写真が表示される。映像に映っていた2人が戻ってきて舞台空間に戻る(という演出)。

自撮りしたり、他の出演者を撮影したり、新しいお菓子を奈落の空間などから持ってきて包装を開けて食べたり。この調子で30分ほど続く。出演者は全員女性で、脚全体を剥き出しにしている。日本の世間一般がイメージする「若い女性」の装いや振る舞いを皮肉っぽく提示しているよう。

ここで、先ほどの「ご飲食云々は禁止」というアナウンスがまた流れたと思う。それで、彼女たちの行為が全て、観客には禁じられていた行為だったのだと強く意識させられる。

後半は、大音響の機械的な音楽の中で激しく動いたり踊ったり、小休止があってまた始まったりする。終盤、UFOキャッチャーでうまく縫いぐるみを取れなかったダンサーがUFOキャッチャーのガラスケースを開けて中の縫いぐるみを何体か取り出し、下が直接は見えないが実はカメラが設置してあって液晶画面に下の様子が映し出されている奈落に落とすと、サイレンのような音が鳴り、出演者たちが逃亡するかのようにいよいよ激しく動き回る。しかし、どの場面でも、激しく動いている出演者が大半のときも1人か数人は止まったりゆっくり動いていたりすることが多かったように思う。そのちぐはぐな違和感が奇妙な雰囲気を醸し出す。

しかし、ガチャガチャと動いているところは妙に統制が取れているようにも見えて、それは意図されたものではなく自然と調和状態になったのかもしれないが、その様子は気持ちいいというよりは少し不気味だった。その不気味さも作品らしさなのかもしれない。

出演者たちが逃げ惑う中、舞台空間の3分の1か4分の1くらいを閉める部分がせりあがっていく。その空間に乗っていた出演者たちは、数十センチ上がったところで飛び降りた。広い温室のような空間が現れ、カメラの付いた掃除ロボットのような機械が動き回り、小さな台にはカップ麺が載っている。上部には、植物のようなものがぐるりと付けられている(だから温室のように見えたのだ)。

1人の出演者を残して全員が退場し、ほぼ静寂が訪れる(大音響の音楽は消える)。残った1人がカップ麺を開けて一口すすり、掃除ロボットのような機械を温室(のような空間)の外側の空間に放つ。彼女も退場。先ほどと同じような声で終演を告げるアナウンスが流れ、出演者たちが再登場しないまま終わった。きつねにつままれたようにややためらいがちに観客の拍手が始まり、消化不良のように消えていく。この尻切れトンボのような終わり方も演出のうちなのだろう。

ダンスだがアートパフォーマンスのようでもあり、斬新だが、個人的には眠かった。女子的なものを誇っているのか皮肉っているのか、どちらでもあるのか。チケット料金4000円は高いと思うが、セットなどにはある程度お金がかかっているのかもしれない。

前半の30分間、一見グダグダしているように見えるシーンを続けたのは度胸があると言うべきか。展示室や屋外で行われているパフォーマンスなら観客は去ったかもしれないが、去ることができない(しようと思えばできるが、チケット代を考えるとそうする人はあまりいないだろう)劇場の公演でこれをするのがポイントなのだろう。いつまで続くのか?どこを見ていればいいのか?ちょっと飽きた、などの観客の戸惑いや居心地の悪さ、逆に面白がる気持ちなどがない交ぜになって、空間を満たす。その観客の気分も作品の一部になっている。

好き嫌いが分かれそうだが、それは大いに望むところだ、という作り手の気概やいたずら心が伝わってくるようで、その点は爽快だ。


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振付・演出:菅尾なぎさ

音楽・LIVE:Daisuke Tanabe

出演:

クリウィムバアニー

阿竹花子 金子あい 桑原史香 佐藤想子

コリウィムバアニー

杏あきこ 零ハナ 田中千紗子 津ヶ谷早稀 光こ フカマツマイ 間瀬奈都美


2019年

6月21日(金)20:00

6月22日(土)15:00/20:00

6月23日(日)15:00


[前売]

一般 4,000円

U24 3,500円

高校生以下 3,000円

世田谷パブリックシアター友の会会員割引 3,800円

せたがやアーツカード会員割引[世田谷区在住者対象] 3,900円

[当日]

4,500円


美術:佐々木文美

技術監督:鈴木康郎

舞台監督:湯山千景

照明:田代弘明(DOTWORKS)

音響:中原楽

衣装:西岡七歩子

映像技術:岸本智也

宣伝美術:TAKAIYAMA.inc

制作:堀朝美

プロデューサー:遠藤豊

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