及川廣信、ヨネヤマママコ、大野慶人etc.「All About Zero」(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)シアターX

「舞踏アーカイヴプロジェクト」と銘打って、マイムの及川廣信氏(93歳)、パントマイムのヨネヤマママコ氏(84歳)、舞踏の大野慶人氏(80歳)という伝説の巨匠たちが集結。能の清水寛二氏、コーポリアルマイムのtarinainanika(タリナイナニカ:巣山賢太郎氏、タニア・コーク氏)、地唄舞の木檜朱実氏も参加し、盛り立てる。

公演告知には「※やむを得ない事情により出演者を変更する場合があります。変更に伴う払い戻しはいたしません。あらかじめご了承ください」との注記があった。3人の出演者はかなりご高齢の方々なので、ドキドキしながら本番を迎えたが、めでたく全員予定通り出演してくださって、おかげで歴史的な瞬間に立ち会えた。メインのアーティストたち3人と同時代を生きることはできなかったが、この日には間に合って生まれてきてよかった。

映像上映とライブパフォーマンスから成る。会場のロビーと劇場内の舞台は今回のイベントにふさわしく出演者たちのかつての写真や現在使っている品などで飾られていた。彼らの居室に迷い込んだようだった。開演前と2回の10分ずつの休憩では、写真撮影も可だった。

開演前に2時間と告げられていた公演時間は大幅に延び、なんと3時間20分に!あまりテキパキと進めるわけにもいかないだろうと予測はしていたが、想像以上の長丁場になった。出演の方々があまりにお疲れでなかったらいいのだが。

舞台の両袖にも座席を並べ、それでもおそらく満席の大盛況。途中で帰る人もいたが、開演時は立ち見もいたのではないだろうか。観客には高齢者も多くいたが、若者もそれなりに結構来ていたと思う。

プログラムは下記の通り。


---------------

<プロローグ>

・マルセル・カルネ『天井桟敷の人々』よりジャン・ルイ・バロー(映像)

・大野一雄「わたしのお母さん」より「愛の夢」(映像)

・清水寛二 能『藤戸』より(ライブパフォーマンス)


<1. 及川廣信>

・tarinainanika エティエンヌ・ドゥクレー レパートリーより「Le Prophète(預言者)」「La Femme Oiseau(鳥と婦人)」(ライブパフォーマンス)

・及川廣信「パフォーマンス・フェスティバル’84 IN HINOEMATA」(映像)

・及川廣信「及川廣信・高橋亜莉香 ダンス公演」(映像)

・及川廣信の部屋(ライブパフォーマンス)

・tarinainanika「Beyond the Reach(手の届かない場所へ)」(ライブパフォーマンス)


(休憩10分)


<2. ヨネヤマママコ>

・ヨネヤマママコ「新宿駅ラッシュアワーのタンゴ」(映像)

・ヨネヤマママコの部屋(ライブパフォーマンス)


(休憩10分)


<3. 大野慶人>

・木檜朱実 地唄舞「浮舟」(ライブパフォーマンス)

・大野慶人&悦子 結婚式(映像)

・大野慶人「白衣の男」(映像)

・大野慶人 舞踏(ライブパフォーマンス ※曲は「ダニー・ボーイ」)


<4. 能>

・清水寛二(ライブパフォーマンス ※公演パンフレットには「能」とあるが、大野慶人との即興の(?)コラボレーションだった)


<エピローグ>

---------------


映像もライブパフォーマンスも貴重なものばかり。「~の部屋」では、お三方それぞれと清水寛二氏、それにそれぞれの「アクセスコーディネーター」(お弟子さんなどと思われる)を交えてトーク。

及川廣信氏は車いすを使っていらっしゃって、パフォーマンスはなかったが、1952年にフランスに留学して、マクシミリアン・ドゥクルーにマイムで師事した話などを披露。

ヨネヤマママコ氏はアメリカでパントマイムを学んだという。映像「新宿駅ラッシュアワーのタンゴ」は何十年も前の作品だが、今と変わらぬ新宿駅の混雑ぶりを風刺たっぷりに描く。トークから始まり、その後はマイクを離れて、他人をよけ他人とぶつかる人たちの様子をタンゴに見立てて踊る。面白い!現在も、ご病気の影響で片手に震えがあるが、ウィットに富み絶妙のタイミングで話題を振って観客を引き付けて離さないトーク力は健在。パントマイムの基本の実演もしてくれた。ほうきを掃く動作のときに片脚をほうきのように動かしたり、ドアノブを閉めるときや凧を揚げたりする行為のときに顔でドアノブが回ったり凧が風になびいたりする動きをしたりする「代償行為」や、手で壁があることを示すときの、「緊張と緩める」など、どれも興味深い。ムーンウォークもパントマイムのテクニックなのだそうだ。、言われてみれば確かに、そういう動きを大道芸で見掛けたことがある。ヨネヤマ氏は1950年代後半ごろにテレビ出演もしていたらしい。舞台にはお若いころのかなり美人なお写真が飾ってあった。

大野慶人氏は言わずと知れた大野一雄氏のご子息。最近はずっと腰の具合が良くないようだが、足のステップと、顔や手の大きくはないが豊かな動きで舞踏を踊る。なぜか分からないが泣けてくる。清らかな命の尊さのような根源的なものが胸に迫ってくるのだ。生命は美しい、と思う。「白衣の男」(1969年、大野慶人秘蔵16ミリ映像)は31歳ごろの映像作品のようだが、これを見られたのが大きな収穫だった。全く知らない作品だったのだが、海辺でワンピースを着て帽子をかぶって鶏と踊るソロ作品(または鶏とのデュオ?)。選曲(3曲ほど使用)も良い。アヴァンギャルドな感じで今見ても新鮮。大野氏がこんなに若いころの顔を見たことがなかったが、美男子なのではないか。1959年に土方巽氏の「禁色」に少年役で出演したというが、美少年、美青年だったのかもしれない。今も端正なお顔立ち。そして、雰囲気が神々しくさえあり、ありがたい感じがして、なんとなく大野氏を見ている自分が優しい気持ちになってくるから不思議だ。1962年の大野夫妻の結婚式のプライベート8ミリ映像も上映されて驚いた。ぼやけた映像で顔はよく見えないが、映像が残っているのがすごい。今回のイベントの衣装は奥様の大野悦子氏が担当なさったらしい。

それぞれのアクセスコーディネーターさんとの関係性も少し見えて、すてきだった。

コーポリアルマイムは初めて見た。音楽と体で表現する言葉のない演劇のような感じで、詩的な作品世界。

一度限りの貴重な公演だった。ダンスの「アーカイヴ」をどのように行っていくのかは重要な課題だ。NPO法人ダンスアーカイヴ構想のプロジェクトに今後も注目したい。


---------------

出演:

及川廣信(マイム)、ヨネヤマママコ(パントマイム)、大野慶人(舞踏)、清水寛二(能)、tarinainanika(コーポリアルマイム)、木檜朱実(地唄舞)


制作統括:溝端俊夫

演出・映像インスタレーション:飯名尚人

リサーチャー:呉宮百合香

アクセスコーディネーター:相良ゆみ、明神勇郎米、金光圭子

舞台監督:呂師

舞台監督補佐:吉田尚弘

音響:國府田典明

衣装:大野悦子

チラシデザイン:北風総貴


2019年6月8日(土) 15:00


前売一般:3,000円

アーティスト割引:2,000円(先着30枚限定)※ジャンル不問、チラシ等活動を証明できるものを当日受付にてご提示ください。

アカデミック割引:2,500円(先着10枚限定)※学生・教職員等、学生証、教職証等の身分証明書を当日受付にてご提示ください

当日:3,500円(全券種共通)


共催:有限会社かんた

協力:大野一雄舞踏研究所 土方巽アーカイヴ(慶應義塾大学アート・センター)

助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)、独立行政法人日本芸術文化振興会

---------------


ダンス評.com

ダンス公演や映像の批評(レビュー)、ダンス・舞踊情報。踊りのジャンルはコンテンポラリーダンスでもバレエでもなるべく何でも。