不思議なダンス公演を見た。ダンスの世界にいる人ならそうそう思い付かない出演者のラインアップだ。このバラエティー(多様性)は幕の内弁当にすらなっていない。エスニック料理と和食と中華と洋食をいっぺんに食したような感じだ。だが、これらの料理がそれぞれ実際はもっと多様なように、そのごく一部を味わったにすぎない。それでもなかなか強烈な味わいだった。
今回のラインアップは、虹のかけら芸術祭実行委員長のいちかわとも(乙戯社)さんによるものらしい。
■バリ舞踊:PUSPA DUTA(プスパ・ドゥタ)
神にささげる、喜びの踊り(?)と牛の踊りの2演目。冒頭、ナレーションで簡単に演目の紹介があったのが面白かった。日常では絶対にやらない角度に折り曲げられた腕と手や、傾げた首、流し目、そして、衣装の肩の部分に付いた飾りがシャラシャラと鳴る、肩を激しく揺らす動きなどが目を引く。女性たちが両肩を揺らせば、必然的に胸も大きく揺れるので、セクシーだ。日本ではお能とかがたぶんもともと神にささげる踊りだったのだろうが、バリ舞踊のそれはだいぶ違うように見える。昔、インド舞踊(インドのどの地方のものだったかは覚えていない)は見に行ったことがあるが、インドやバリの舞踊に興味がないわけではないが単独で見に行くことはほとんどないので、新鮮だった。
■ゴシックベリーダンス:Art Mayu
ベリーダンスは、昔、知り合いの公演(ショー)をレストランで見たことがあるが、今回のには「ゴシック」とある。確かに、黒いレースを使った衣装はゴシックファッション的だった。腰(腹)をくねくね動かすダンスは妖艶だが、これも神への捧げものという説があるらしい。しかし、宮廷由来とも言われて、はっきりしないのだとか。昔、一度だけベリーダンスのレッスンに参加したことがあるが、先生の腰に目が釘付けだった。今回も、ダンサーたちのおなかを凝視してしまった。冒頭で、2人のダンサーが出てきて、英語で「Mayuの世界へようこそ」と書いた垂れ幕を掲げたのも面白かった。
バリ舞踊にもベリーダンスにも、それぞれ「言語(特徴的な動き)」がある。ところで、「ベリーダンス」って英語から来ていると思われるが、発祥の地の中東では何と呼ぶのだ?単に(アラビア語で)「ダンス」と呼んでいるとか?と思ったところで、10分間の休憩。
■コンテンポラリーダンス:下村唯
前半のダンスを客席で見ていたらしい下村さんは、休憩中に観客にあいさつを述べてから、準備のために舞台裏へ。
「横浜ダンスコレクション2019」で審査員賞(グランプリ)とポロサス寄付基金Camping 2019賞をダブル受賞した下村さん。
今回の作品名は「日本現代舞踊大学本部キャンパス」。観客を大学の新入生、優秀なダンサーと想定し、「コンテンポラリーダンスとは何か」という講義をする准教授として登場する。演劇のように言葉を発し、観客とコミュニケーションする。
コンテンポラリーダンスとは、「同時代の何でもありのダンス」だが、バレエのような「伝統にはとらわれない、伝統を超えていくダンス」で、「定義を自ら作り出していくダンス」であり、その際に要となるのが「体」であり、特に体の「背骨に着目」してみたいと思っていて、背骨からも「体は一人一人異なる」ことが分かり、すなわち、コンテンポラリーダンスでは「その人だけが持つ体、個性」が大切であるとのこと。確かに、バレエのような「古典」では、確固とした「規範」、「美の基準」があり、そこから「逸脱」したものは「排除」される。コンテンポラリーダンスでは、「違い」「独自性」こそがダンスになる。
私は(私だけではないと思うが)、ダンスは「人間存在、そしてそれ以外のあらゆる存在の肯定」だと考えている。よく動く体もあまり動かない体も、ダンスしようとするときの体から発せられるエネルギーと唯一無二の身体を目の当たりにすれば、その体をばかにしたり傷付けたりはできないはず、と信じている、または信じたいからだ。
下村さんのダンスは、人間に対する絶対的な信頼が根底にあると感じる。たぶん自信がある人だと思うが、独りよがりに踊るのではなくて、観客の声を聞くし、観客の手に触れて、そこからもらったエネルギーを自分の身体に集めるようにして踊る。人間が好きでないとああいう作品は作れないと思う。
全然関係ないが、オノ・ヨーコさんのパフォーマンスで映像として残っている作品に、参加者が一人ずつはさみで彼女の衣服を切り取っていくというのがある。たいていの人は遠慮がちに服の端を小さく切り取るが、中にはきわどい場所を大胆に切り取る者もいる。参加者にサクラがいないなら、勇気のある作品だと思う。だって、きわどい部分の衣服を切るどころか、体にはさみを突き刺す人がいないとも限らないのだから。これはなかなかすごいことだと思う。
下村さんの作品に戻ると、講義を終えて最後はコンテンポラリーダンスがどんなものなのかを実演する。気持ちよさそうに踊っているように見えた。ラストは、横浜ダンスコレクション2019の作品「亡命入門:夢ノ国」で使っていたのと同じ音楽で、動きも同じものがあったと思う。
ダンスを見たことがない人にもすすめたいダンス作品だ。
■アニメーションダンス:GENDAI
アニメーションダンスとは、ストリートダンスから出てきたもので、クレイアニメのような動きであることからこの名前が付いているらしい。特別ゲストのGENDAIさんは、アメリカのアポロシアターのAmature Nightで4週連続で優勝したそうだ。首が胴体から外れてしまったように見える動きなど、関節と筋肉がどうなっているのだ?マイケル・ジャクソンのムーンウオークの動きもあった。
1時間半弱の公演後、4人が舞台に上がって、短いトークを行った。最後は、「身近なところにあるダンスについて、振付は誰か、どんなダンスなのかなどを気にしてほしい」と締めくくっていた。
観客数は非常に少なかったが、一夜限りの奇妙(!)でなかなか貴重な公演だった。
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