荒悠平と大石麻央「400才」新宿眼科画廊地下

ダンサーの荒悠平さんが、彫刻家の大石麻央さんが羊毛のニードルフェルトで作ったサメの被り物(頭部のマスクと手足、ヒレとシッポのようなもの)をして踊る公演。美術(アート)とダンスが両方楽しめる。

会場の新宿眼科画廊地下は30人くらい(?)でいっぱいの狭い空間。舞台となる場所には、木製のテーブルと椅子、本や置物がある棚があり、2枚の絵が飾ってある。こじんまりとした室内という設定のようだ。

開演すると、座席の通路を通って、金属のポットを手にした荒さんが登場。もっとも、シャツとズボンと首以外はフェルトのサメ肌で覆われているので、中身が誰なのかは見えない。

このサメさんは400年生きているということが、公演の告知で明かされている(北極海に実在する「ニシオンデンザメ」から着想を得たという)。「このサメさんは400年も生きているのか」と感慨深げにサメを見る。

サメさんは、棚とテーブルとをゆっくりと何度も往復し、コーヒーを入れる準備をする。「そうか、400年生きているから、時間の捉え方が私たちとは違うんだ。時間がたっぷりあるから、あんなにゆっくり動くんだな」と思う。

これまでに何度か、ダンスのワークショップで「ゆっくり」動いた体験を思い出した。ゆっくり動くことで、時間の流れ方を変えることができる。ミヒャエル・エンデの物語『モモ』のことも思い起こす。

サメさんの歩き方は人間から見るとちょっとギクシャクしている。「サメ肌が硬いせいか、400年生きているとサメとしてもさすがに結構なお年寄りだからか、本当は魚なのに無理して2本足で歩いているからか」などと考えを巡らす(後で逆立ちしてたけど)。「頑張れ、頑張れ」と応援したくなる。

やっとコーヒーが入った。香り高いコーヒーだ。サメさんがカップをつかんだ。「え、どうするの?飲めるの?口はどこ?」と思ったら、マスクの顎の部分をひょいと少し持ち上げて、中身の人間の口ですすった。ここで初めて客席から笑いが漏れる。

カップが2つあり、1つにはコーヒーを少し入れて棚の上に移動させ、もう1つには自分用にたっぷり注いでいたけれど、ちょびっとのコーヒーは誰のためのものだったのでしょうか?

時折、体が床に吸い寄せられるようになっているのは、海で泳いでいたときの名残でしょうか?

コーヒーを飲んでほっとしたのもつかの間、手に触れた椅子が崩れ、テーブルも試しにちょっと触れたら見事に崩れてしまった。「海でしばらく過ごしていて、100年ぶりにこの部屋に戻ったから、木が腐っちゃってたのかな」と思った。「海の中にある部屋で、塩も付いて湿気ちゃったりしていたのかもしれない」。

バラバラになった木片を積み重ねたり、そうして作った柱の間を通り抜けたりして遊ぶサメさん。木を組み立てて低いテーブルを作ると、紙とペンを取ってきて、手紙を書き始めた。サメさんは初めて声を出して、手紙を書きながら観客に内容を知らせる。しばらく会っていない「君」への手紙。「日常が足りていません。冒険には飽きました」という最後の言葉が気に掛かる。

暗転すると、床に散らばった白い物がチカチカキラキラ光って見える。オーディオ機器(?)の青い光と、赤い光と、サメさんが持って移動させる白い光。潜水艦の中みたい。

壁に映った影で影絵を作って遊んだり、激しく踊ったり、木琴を演奏しながら歌ったりする。「悲しいことは忘れて、楽しいことだけ覚えている、そうなれたらいいのに」という内容の歌。

部屋にある2枚の絵は、1枚はサメの横顔と海の絵、もう1枚は魚人間の肖像画みたいな絵。最後にサメさんは肖像画を見つめる。「昔、好きだった、大切だった人なのかな?」と思った。「400年生きてたら、大変だな。悲しい別れもいっぱいあったのかな」と、手塚治虫の『火の鳥―未来編―』も思い出し、切なくなった。出会いもたくさんあったかもしれないが、サメさんを見ていると物悲しさを感じる。お茶目なところも確かにあるのだけれど。

公演を見ながら、こういうマスクを被って出勤したらどうなるだろうと考えていた。楽しいかもしれない。

アフタートークでは、ヲノサトルさんが「ダンスというよりせりふのない演劇のようだった」と述べ、パフォーマンスから読み取った物語を披露した。確かに、物語性を感じる作品だった。大石麻央さんが絵も描いていらっしゃるなら、このダンスを、フェルトも使ってモコモコしている絵本にしてほしい。

大石麻央さんのフェルト作品、人間が薔薇になっている人形の作品があったのだが、顔の薔薇のマスクを取ると、中は人間の顔になっているらしい。どんな顔なのか見たかった。

荒さんによると、羊毛のフェルトのマスクは、着けているととても暑く、視界が狭く、平衡感覚も崩れるらしい。それで1時間動くのは大変そうだが、「そうか、別にいつも人間として踊らなくても、人間でいなくてもいいのかもしれない」と思わせてくれるダンスだった。ダンスのワークショップで、「海の中の何かの生物から陸上に上がって4足歩行から2足歩行、そして人間へ」進化する過程を体験したことを思い出した。

たまには動物や植物になってみよう。

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2019年 1月

25日(金)19:30

26日(土) 14:00* / 19:00

27(日) 15:00*

28(月) 19:30

29(火) 15:00

*アフタートークあり(ゲストは土曜日がアップリンク代表の浅井隆さん、日曜日が音楽家のヲノサトルさん)

※上演は1時間強、ポストトーク(日曜日)は30分弱。

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※下記画像は下記の公演サイトより。

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